大腸がんを克服したフリーアナの原元美紀さん「病院に行かないなら離婚する」と夫に言われ…

公開日: 更新日:

原元美紀さん(フリーアナウンサー/53歳)=大腸がん

 2007年5月に4泊5日の入院で、大腸内視鏡による1.8センチの腫瘍摘出手術を受けました。後日、病理検査の結果を夫と聞きに行くと、「腫瘍は悪性でした」と告げられました。

 それがあまりに爽やかな口調だったため、「ああ、そうですか」と当たり前のように答えて、その後に続く注意事項を延々と聞いていました。夫が「悪性ということは『がん』ということですか?」と先生にたずねても、「何言ってるの。腫瘍が悪性だっただけよ」と夫をたしなめてしまったくらい自分とがんを切り離して考えていました。先生に「そうです、原元さんは『早期の大腸がん』でした」と言われて初めて認識したのです。

 ただ、腫瘍はすべて取れたので薬はなし、抗がん剤も放射線もない予後のいいがんでした。実感がなかったのは痛みがまったくなかったからです。先生からも「痛みもなく、発覚前に血便がこんなに出るのは珍しい」と言われました。

 初めての血便は手術の3年ほど前でした。ふと便器の中を振り返ってみたら、一筋の血が見えたのです。その後、月に1回ぐらいのペースで続いたのですが、痔だと思って「痛くなったら病院に行こう」と放置していました。

 血便が出る周期がだんだん短くなっていく中、06年に報道キャスターから現場リポーターになりました。ずっと願ってやっとかなった希望の仕事。わかっていたことですが24時間365日、いつ呼び出されるか分からない激務です。朝の帯番組が10時に終わるとスタッフに拉致されるように取材に向かい、事件や事故にも飛んでいく。そして翌朝は7時30分から生本番。睡眠時間は平均2.5時間ぐらいで、プライベートはありませんでした。

 そんな06年のある日、朝の連絡で指定された病院に行きました。がん検査を受ける人にお話を聞くインタビュー取材でした。当時、30分で全身のがんがわかる夢のような検査としてPET検査が注目され、一方では万能ではないと物議を醸してもいました。ひょんなことから「やってみますか?」と言われ、思いがけず取材としてPET検査を受けたのです。

 PET検査は、がんがブドウ糖を取り込みやすいという性質を利用して考案された画像診断です。おかげさまで画像には異常がなく、翌日の本番では「異常ありませんでした」と放送して終わったのですが、その2週間後に便潜血と血液検査の結果が届きました。というのも、脳や心臓、胃や腸は常にブドウ糖が集まっていることから画像では判断ができないため、便潜血と血液検査がセットになっていたのです。

 結果は陽性。腫瘍マーカーも異常で、「ただちに医療機関で再検査を受けてください」と書いてありました。

 でも、近所の病院で再び便検査と血液検査を受けてみると、結果は陰性でした。医師から「30代半ばの女性で大腸がんは聞いたことがない」とも言われたのですが、不安が残ったことは否めません。「心配なら大腸内視鏡検査を受けてみては?」と言われたものの、緊急性がないと予約がなかなか取れず、ちょうど結婚式の披露宴もあったので、どんどん先延ばしに……。いつしか血便は毎日のことになりました。

■術後1年間は周囲にがんと言えなかった

 しかし、痛みがないのでまた放置。仕事がさらに忙しくなり、顔色がドス黒くなった頃、取材先の福島で便器が真っ赤になる下血がありました。それでも重大なこととは思わず、帰宅して夫に話すと「明日病院に行ってくれ。行かないなら離婚する!」とまで言われてしまい、「大丈夫なのに」と内心で思いながら、それまでとは違う病院に行きました。すると触診で医師が顔を曇らせ、内視鏡検査となり、1.8センチの腫瘍が見つかったというわけです。

 いちばんつらかったのは、手術後1年間は周囲に「がんでした」と言えなかったことです。「がん」と言った途端に仕事から外されることが怖かったのです。当時はまだがん対策基本法が成立しておらず、周囲ではたばこは吸い放題。副流煙での再発におびえながら仕事を続けました。普通に仕事ができることを身をもって実証してから、やっとがんだったことを公表しました。今思えば、不規則な生活、睡眠不足、運動不足、プレッシャー、副流煙など、がんになる原因に囲まれていたと思います。

 大腸がんのことを調べると、女性は40歳から急増していますが、それは市区町村の検診のお知らせの対象が40歳以上だからです。実際は30代から始まっていると思うので、大腸がん撲滅キャンペーンの運営に携わっています。

 また、ストレスがなければ世の中の病気は激減すると考えて、7年前からコミュニケーション心理学を学んできました。「ストレスもハラスメントもすべてはコミュニケーションの問題。コミュニケーションスキルがあなたを救う」をモットーに、ストレスで病気になる人をひとりでも減らすべく活動しています。

(聞き手=松永詠美子)

▽原元美紀(はらもと・みき) 1969年、東京都生まれ。中部日本放送アナウンサーを経てフリーに転身。報道キャスターを務めた後、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)のリポーターとして活躍している。一方で心理学の資格を取得し、「㈱クリアトータルコミュニケーションズ」を設立。一般企業の依頼を受け、心理学からアプローチするビジネスコミュニケーションやハラスメント対策などの研修を行っている。

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  2. 2

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  3. 3

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  4. 4

    大山悠輔に続き石川柊太にも逃げられ…巨人がFA市場で嫌われる「まさかの理由」をFA当事者が明かす

  5. 5

    織田裕二がフジテレビと決別の衝撃…「踊る大捜査線」続編に出演せず、柳葉敏郎が単独主演

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 8

    どうなる?「トリガー条項」…ガソリン補助金で6兆円も投じながら5000億円の税収減に難色の意味不明

  4. 9

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  5. 10

    タイでマッサージ施術後の死亡者が相次ぐ…日本の整体やカイロプラクティック、リラクゼーションは大丈夫か?