江上剛氏を銀行マンから作家へと導いた井伏鱒二との出会い

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井伏鱒二「黒い雨」

 あれは昭和47年、早稲田大学に入学して、しばらくしてのことです。雲の上の存在だった作家の井伏鱒二さんの自宅にいきなり訪ねていったのです。思い返せば、あの日があったから、今の自分があるんだなと思っています。

 当時、私は政経学部の学生でしたが、文学部出身の紅野敏郎教授の授業をとっていて、そこで「作家論を書くように」という宿題がでた。私は迷いもなく、井伏さんを書こうと決めた。高校時代から「山椒魚」や「屋根の上のサワン」、もちろん「黒い雨」も読んでいてずっとファンでした。ほとんどの作品を読んでいました。

 ただ、すでに井伏さんは文化勲章も受章していた文壇の大御所であって、見も知らぬ一学生が会いに行くなんて、常識では考えられないことでした。ところが、運命のいたずらみたいなものがあったのです。当時、早稲田は学生運動というか、内ゲバが激しくて、ノンポリだったものの、私は革マル派排除の方のデモにたまに参加していました。その頃、文学部に革マルが攻め込んでくるから、それを押し返そうという話になった。とはいえ、相手は革マル。川口大三郎君リンチ事件があった頃で、やっぱり人間の盾になるのは怖い。鉄パイプで突かれたら、一巻の終わりだなと、前夜から腹に週刊誌を巻いて備えていました。

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