「発動させないことが大事」 土地規制法について馬奈木弁護士に聞く

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 安全保障上の重要な土地利用を規制するとした「重要土地等調査・規制法案」(土地規制法案)が16日未明の参院本会議で可決、成立した。新法では、内閣総理大臣が安全保障を理由に、自衛隊や米軍などの防衛関連施設や海上保安庁の施設、原発などの周囲(約1キロ)や国境離島を「注視区域」に指定できるほか、特に重要な地域は「特別注視区域」とし、一定面積以上の土地や建物を売買する際は事前に氏名や利用目的の届け出などを義務付けている。ただ、条文の中身は曖昧で、政府に広範な裁量権を与えるとして「私権制限につながる」との指摘は少なくない。土地規制法の何が問題なのか。参院内閣委の参考人質疑で法案廃止を訴えた東京合同法律事務所の馬奈木厳太郎弁護士に聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ――参考人質疑で「内閣総理大臣の内閣総理大臣による内閣総理大臣のための法案」と指摘していましたが、あらためて法律の問題点を教えてください。

 新法は内閣総理大臣に広範な権限を委ねることを認める内容です。重要とされる施設の周囲1キロを調査するだけ――と捉えている人がいるかもしれませんが、そうではありません。区域は概ね1キロとしていますが、調査対象者に1キロの縛りはなく、関係者だと見られれば調査範囲は際限なく広がる。調査内容についても、(政府が)必要があると認める時は「あれ出せ、これ出せ」と求めることが出来る内容のため、事実上、限定されていません。

 ――政府、与党は「他国でも同様の法律がある」と説明しています。

 確かに諸外国で似たような法律を持っている国では、例えば土地売買の時に許可制のような形でチェックをかけています。しかし、日本の今回の法律は(売買時のように)権利変動があった時という限定はなく、恒常的に網羅的に調査できるようになっています。

 ――なぜ、そういう内容になっているのですか。

 施設などの機能を阻害すること(機能阻害行為)がないようにする、としているからです。これは土地売買の時だけチェックしていても分からないし、名前や住所、国籍を確認しても不審者かどうかは確認できません。そうなると、プラスアルファの情報、つまり、調べる側が「機能を阻害しない」と判断するために必要な情報を集めることになる。ほぼ無制限ということになりますから、当然、個々のプライバシーや思想信条も調査対象になるでしょう。調査手法についても縛りがないため、尾行を含めた行動監視はもちろん、職歴などの個人情報も情報収集される可能性があります。第三者からの情報提供も検討する、としていますから、密告的な手法もあり得るでしょう。

法案成立でも法の発動を許さないようにすることは可能

 ――政府側に「怪しい」と疑われたら、個人情報を含む様々な情報が筒抜けになるわけですね。

 私は決して陰謀論を主張しているのではありません。条文上は少なくとも、何ら制限がない内容になっていると指摘しているのです。政府側は否定していますが、そうであれば、もっと(調査対象や範囲などを)絞り込んだ条文にするべきで、政府が理解、認識していないはずはない。つまり、「そんなことは考えていません」と言っているだけです。基本的な人権を制約するような法律にもかかわらず、基準は曖昧で、施設の機能を阻害すると判断すれば中止の勧告や命令のほか、応じない場合は(懲役2年以下または罰金200万円以下の)刑罰を科す。全く論外です。

 ――この法律の成立によって最も影響を受けるとみられるのが沖縄県です。政府は米軍基地に反対する市民運動に弾圧を加えたり、萎縮効果を狙ったりしているのではないかとも指摘されています。

 政府は(弾圧や委縮効果は)念頭にないと言っていますが、一番影響受けるのは沖縄県であることは間違いなく、防衛施設関係の運用に支障をきたすことがないよう反基地運動の人たちに歯止めをかけたいと考えていても不思議ではありません。政府側は否定するでしょうが、そういうことを意図してあえて法律の中身を曖昧にしたのではないかと断ぜざるを得ません。

 ――新法に対して、「外国人や外国資本から日本の国土を守ることになる」といった好意的な見方もあります。

 外国人や外国資本からの土地購入の歯止めになるのかといえば、なりません。この法律は土地の取引自体を制限するのではなく、土地の利用の仕方を規制するのが目的だからです。従って(外国資本などが)土地を購入すること自体は禁止されていません。また、土地購入が直ちに安全保障上のリスクになるわけでもありません。

 ――法案は可決、成立しましたが、これから国民が出来ることはありますか。

 たくさんあります。今後、新法をめぐって閣議決定したり、政令を作ったり、という手続きがあると思いますが、その都度、チェックして声を上げる。法律の可視化、透明化を図るほど、問題点が明らかになり、住民の批判は必ず高まるでしょう。さらに、この法律は関係行政機関や地方公共団体の協力を前提にしているため、地方自治体の首長や地方議会がどういう対応をとるのかも重要です。法の発動を許さない、法律を動かさないようにすることは可能だと思います。

(聞き手=遠山嘉之/日刊ゲンダイ)

▽馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう)1975年、福岡県生まれ。大学専任講師(憲法学)を経て現職。福島原発事故の被害救済訴訟などに携わる。

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