コロナ禍の自粛で進む認知症 発見や改善に「文字の書き取り」が注目されている理由

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 コロナ禍での生活が始まって1年半になる。外出自粛と人との交流断絶で、こと高齢者にとっては、認知症の発症や悪化が問題になっている。そんな中、注目されているのが文字の書き取りだ。文字に物忘れの兆候が見られたり、書き取りを続けることで認知症が改善したりするという。

 筆跡診断士で、書学博士の石﨑白龍氏が言う。

「筆跡心理学の草分け的存在の森岡恒舟先生に師事して筆跡診断士の資格を取得してから、『子供の書いた文字からその心理状態をいち早くキャッチする』をテーマに活動してきました。2万人以上の文字を見ると、文字に子供の心理状態が表れることに気づき、対象を大人に広げ8万人以上の大人の文字を見ることで、文字に認知症のサインが表れていることを確信するに至ったのです」

 映画「レナードの朝」で主演ロバート・デ・ニーロはパーキンソン病の男性を熱演。その典型的な症状が手の震えで、字が書けなかったり、字が歪んだりしたシーンがあった。パーキンソン病は高齢者に多いし、年を取れば握力も弱くなる。そんな高齢者に特有の病気の可能性もあるだろう。しかし、認知症の影響も文字に色濃く映るというのだ。

「たとえば『口』という漢字の3画目、下の横の線を縦の線につけず、間を開けて書くのは、物忘れの人に多い。ある営業マンの方がそんな字を書かれたので指摘すると、『なんで分かるんですか? 確かにお客さんのお名前を思い出せないことが多くて』と話し始めました。これまでの8万人の字の統計から、『口』という字のほか認知症の症状によって、漢字に一定の特徴があることが分かっています」

 PCやスマホの普及で文字を書くことが減り、イザ書こうとすると、漢字が浮かばない。書けない。書くと、汚い。そんな文字の汚さと、認知症の症状としての文字は、違うそうだ。

 具体的な症状と認知症の人の文字の関係については後述するとして、なぜ文字によって認知症をチェックできるのか。新別府病院脳神経外科医長の濵﨑清利氏が言う。

「文字には、バランス感覚が正常に保たれているかどうかが表れます。たとえば、脳の中の視床は脳を流れる電流の強さを調整するため、そこが障害されると、筆圧の強弱にバラつきが出ます。トメ、ハネ、ハライを正しく書くには、脳の中でブレーキとアクセルを使い分ける必要があります。脳科学的に脳と文字の関係は研究が進んでいて、文字から認知症のサインを読み取ることは可能なのです」

MCIで見つけるのがカギ

 濵﨑氏は、脳神経外科の手術を手掛ける一方、認知症外来も担当。米国の認知症改善プログラムであるリコード法を習得し、日本で5番目のリコード法認定医でもある。認知症に詳しい医師が着目する点が、文字による認知症の早期発見、文字の書き取りを続ける文字トレによる改善だ。

「認知症はある日突然、記憶障害をはじめとする症状が表れるわけではありません。軽度認知障害(MCI)と呼ばれる前段階から20年くらいかけて少しずつ進行し、本格的な認知症に移行します。家族の名前が思い出せないほど進行しているケースの多くは、そもそも文字を書く行為ができないので、文字を書くことで認知症が治るのは考えにくい。しかし、MCIの段階で発見し、文字トレをすることはとても効果的。症状の現状維持、あるいは進行を遅らせることが可能です」(濵﨑氏)

 そんな2人は、「書くだけで発見・予防・改善! さよなら認知症 文字トレ」(徳間書店)を上梓。濵﨑氏は医師として医学的な部分を監修している。では、MCIの段階で発見するには、文字のどんな部分に着目すればいいか。

 著書の中から5つをチョイス。いずれも左が軽症で、右が重症だ。この中によくみられる文字のクセが、認知症の人によくみられるという。

「線と線が接触するところは接筆で、線の書き終わりは終筆といいます。『口』や『目』『真』など漢字によくみられ、物忘れが多い人は、接筆か終筆が開く傾向があるのです。1カ所は軽度、2カ所は物忘れが頻繁に起きている可能性が高いといえます」(石﨑氏)

「中」は、右上がりになりやすい文字だが、認知症が悪化すると、右上がりが極端になる傾向があり、認知症で怒りっぽい人に多いという。認識できないことがあって不安や焦りを感じている人は、「目」や「真」などの横線の間隔がバラバラになりやすいそうだ。

「認知症は、いくつかのタイプがあり、6割はアルツハイマー型認知症です。その初期症状でよくみられるのが物忘れで、コミュニケーションがうまくいかないと不安になるため、不安障害も認知症の周辺症状の一つ。穏やかな人が怒りっぽくなったというのは、この典型です。石﨑先生の文字診断を活用すれば、MCIのうちに早期発見しやすい」

レビー小体型の幻覚が改善したケースも

 たとえば父がたまたま怒っていたとしても、翌日いつも通りなら「きのうは虫の居所が悪かったのかな」と気に留めないかもしれないが、認知症による文字のクセを知っていれば受診に結びつけることが可能だろう。さらにその文字を正しく書くようにトレーニングを重ねることは、認知症の進行予防になるというからスゴイ。濵﨑氏が続ける。

「文字を正しく書く動作は、前頭葉や後頭葉、頭頂葉、視床、小脳など脳の複数の領域を同時に活性化できます。つまり、正しく書く文字トレを続けると、脳の中で使われていなかったネットワークを再構築することになるのです。レビー小体型認知症には、壁や天井の点が人に見えたり、小さなゴミが虫に見えたりする幻覚の症状を訴えることがあります。周りの人には見えないので、介護する人が困るのですが、文字トレで改善したことがあります」

 文字をゆっくり書くことを続けることで、手足の震えに代表されるパーキンソン症状も改善する可能性があるそうだ。

 認知症予防活動を「認活」と名づけ、「認活をぜひ広めたい」と意気込む石﨑さん。コロナ禍にはうってつけの方法といえるが、書道や写経が趣味の人はともかく、「今さら書き取りなんて」という人もいるだろう。

「認知症予防で効果的なことはいくつかあり、運動もその一つ。もう一つは、文字トレのほか語学や楽器など知的な活動です。どれでもいいので、自分ができることをすぐに、コツコツと、さらに新しい方法やレベルで取り組むことが大切。それが1年先、2年先、ひいては10年後の生活につながってきますから」(濵﨑氏)

 米国の修道女を対象にした認知機能追跡調査「ナンスタディー」では、脳にアルツハイマー型病変ができていても認知症を発症しなかった人が8%も存在した。その人たちの生活も、運動や知的活動の生活の大切さを裏づける。コロナ禍で迎えた暑い夏、外出がおっくうな人は、認知症予防に文字トレを始めてみてはいかが? 

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