精神科医・和田秀樹さんに聞く 若さを保つ70歳からの生き方

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 人生100年時代――。90、100歳まで健康寿命を維持して過ごせるかは、70歳の迎え方にあるという。70歳前後は、脳の前頭葉の老化、男性ホルモンの減少、セロトニンの減少が一度に襲い、急激に「意欲の低下」が訪れる。新刊「70歳が老化の分かれ道」(詩想社新書)の著者で、精神科医の和田秀樹氏にこの時期の過ごし方を聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 団塊世代もみな70代に突入した。超高齢社会で、70歳近くまで会社員生活を続け、90代の親の介護をしたりするケースが増えた。まだまだ活動期だが、70歳前後の迎え方によってその後の“老いの速さ”や“寿命”に関わってくるという。ちなみに現在、全国の健康寿命は男性が72歳、女性は75歳だ。

「定年退職後、ガクッと年を取るといわれますが、急に歩けなくなったり、認知症になるわけではありません。知能テストで点数が目に見えて落ちてくるのは80代から。病気やケガをきっかけに老化が進むことはありますが、もっとも怖いのが『意欲の低下』です。前頭葉の機能の低下によるもので、早い人は50代から意欲の減退が始まって、70代で顕著になります。それによる不活発な生活が、運動機能や脳機能の低下を加速させます。定年し、子供も独立した65歳以降は、第三者に強制的に何かをやらされる機会もなくなって、急激に衰えるのです。とくにいま、コロナ禍の1年半で高齢者は、自粛生活を送ってきました。ワクチン接種後に外出し、『歩いてもすぐ疲れる』『階段が上れない』『趣味が面白くない』などと自覚する方が増えていると考えられています」

 厚労省は昨年度から、75歳以上の人を対象に行う健診で「フレイル」の状態になっているかチェックしている。「フレイル」とは日本老年医学会が示した概念。介護が必要になる手前の段階で、だるさや疲れ、歩く速度が落ちたり、急激な体重減少によって日常生活を送るのに必要な体力が衰えてしまう。この状態を放置してしまえば、介護まっしぐらである。健診では、運動や食生活の習慣、物忘れの有無など15項目を尋ねて、早期発見や重症化予防を目指している。フレイルの原因となるのが、意欲の低下だ。自覚症状がないというが、サインは?

「意欲低下の指標は、知的好奇心に伴います。たとえば、①先月、本を何冊読んだか、思い返してください。映画でも構いません。40、50代の現役時代、そして数年前と比べて減っていませんか。②宅配ではなく、定期購読していた雑誌や新聞を買っていますか。③ワクチン接種後、旅行や外食はしたいですか。趣味を再開したいか。やりたいことがあるかも振り返ってください。また、体力面としては、④近所のスーパーに買い物に行って足取りが重かったり、疲れを感じるようになったら、進行している可能性があります」

運転に仕事…あらゆる引退をしないこと

 それでは、若さを持続するにはどうしたらいいか。

 今年70歳を迎える笑福亭鶴瓶は、テレビとラジオのレギュラー番組を6本抱える多忙ぶりだ。70歳を過ぎた吉永小百合は、今年公開の映画作品122本目にして初の医師役に挑戦と意欲も衰えない。

「あらゆる、引退をしないことです。たとえば、再雇用でもパートでも構いませんから、働くことをやめない。そして運転も70歳なら免許返納は逆効果です。2019年に筑波大学などの研究チームが公表した調査では、65歳以上の男女2800人(2006~07年時点で要介護認定を受けていなかった人)を追跡し、10年時点で運転をやめていた人は、運転を続けていた人に比べて16年には要介護になるリスクが2.09倍になっていました。運転をやめて、バスや自転車を利用した人の要介護リスクも、運転を続けた人に比べて1.69倍高かったのです。脳機能、運動機能の健診を受けた上ですが、70歳前後なら、運転をやめるリスクの方が高いのです。『肉食』もやめてはいけません。むしろ意識して取るくらいがちょうどいい。高齢になると野菜中心になりますが、70歳以上の日本人の5人に1人がタンパク質不足といわれています。意欲レベルの低下をもたらすのは、脳内の神経伝達物質セロトニンの減少も関係します。セロトニンは年齢とともに減少しますが、肉を食べることで対抗できます。セロトニンの材料となるアミノ酸『トリプトファン』が肉には多く含まれています」

 肉にはコレステロールもたくさん含まれるが、適度に取って維持することは大事。男性ホルモンの原料になるためだ。男性ホルモンの中でも、テストステロンは「意欲」と関係していて、性欲に限らず、他者への関心や集中力をつかさどっている。

 また、年を取ると血液の数値も気になりだすが、「健康診断は受けなくても問題ない」という。多額のお金をかけて隅々まで検査することで、意欲を低下させる可能性がある。

「日本の健診で示される判定は、健康と考えられる人の平均値を挟んで95%の人を正常とし、そこから高すぎたり、低すぎたりして外れた5%を異常とする統計的なもの。だから、自治体などの健診を受けたからと安心せずに、70歳前後からは脳ドックと心臓ドックのみ受けるだけでも十分。心筋梗塞や脳梗塞といった急な死に直結する病気のリスクを軽減できますし、70代以降のがんは中高年に比べて進行が遅いので、放っておいても手術したのと同じくらい生きているケースは多く、逆に手術をしたことで一気に体が弱ってしまい、寝たきりになる方もいます」

 自覚症状がなければ、毎年検査する必要はない。ほかの自覚症状のない病気も同じ。たとえば、「血圧が高い」と言われたとして、薬を飲みながら食べたいものを我慢していれば、20年生命を維持できるかもしれないが、意欲は奪われる。

「仮に5年寿命が短くなっても、外食して食べたいものを食べる人生も選択できます。健診の結果を意識しすぎて人生を楽しめなくなれば、健康寿命とは程遠くなるのです」

■古希を過ぎたら多少わがままに

 そして、意欲が低下していたことを自覚したなら、定期購読雑誌を意識して手に取ったり、多少“義務”的にでも映画や写真など趣味を再開する。

「ラーメン屋の食べ歩きといった健康に悪いかなと遠慮していたものでも構いません。見たい、聞きたい、食べたい――という好奇心を満たすことが、心身の衰えを遅らせます。また60代、70代からは終わりのある“任務”を請け負ってはいけません。80代、90代の親の介護を始める方も多いですが、できれば自治体や介護施設に一任してください。仕事の定年後に老け込む人がいるように、介護も親の死とともに終わりを迎えます。高齢になるほど打ち込んだものが終わった時の喪失感や『次にやることがない』という状態が、意欲の低下を招きます」

 70歳からの生き方は、多少わがままに、自分の人生を生きることだ。挑戦を諦めたらそこから老いる。 

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