首都圏の会社員でも副業で地方創生 長野県佐久市を東京に近くてITに強い街へ
柳澤拓道さん(想定される本業=首都圏の会社員、副業=地方創生)
長野県佐久市で「まちづくりコーディネーター」をしている柳澤拓道さんは東京出身。東京大学文学部を卒業後、UR(都市再生機構)に勤務。まちづくり事業を担当していたが、東京一極集中に限界を感じ、1年前に休職して祖父の故郷である長野県佐久市(人口約10万人)に移住。地域の可能性を探りながら副業・複業を支援している。柳澤さん自身もフリーランス的にコンサルタントをしながら、楽器演奏や、日本酒ソムリエの仕事もしているパラレルワーカーだ。
「お盆や年末になると『帰る故郷がない』と物足りなさを感じる東京出身者が増えます。私もそうでした。記憶をたどると、子どもの頃、祖父に浅間山、高峰温泉、佐久名物の鯉料理店に連れて行ってもらったことが故郷の感覚でした。UR時代の縁もつながって、佐久市から地方創生事業の話をいただき参加したんです」
柳澤さんが運営に関わっているのは、昨年4月、佐久市内にオープンしたワークテラス佐久(通称SAKU SAKU SAKK=サクサクサック)。ここは建物がキレイでWi-Fiがあるだけじゃない。地域との結びつきを生み出す拠点(関係案内所)づくりが柳澤さんの狙いだ。コロナ禍だが会員は順調に伸び現在約60人(前年比6倍)。利用者は移住者、東京や軽井沢の在住者、地元住民。年齢層も10代から50代までとさまざまだ。
「移住者や他県在住者が佐久で仕事や副業を見つけられるように支援しています。たとえば佐久地域を見学してもらって新しい仕事を創出する報酬付きの合宿を実施しました。ここで老舗旅館『中棚荘』の新事業案や、商店街の空き店舗を活用するような案が出ました」
9月1日には複業プラットフォームであるWebサイト「YOBOZE!」も開設。首都圏在住の人が佐久市で副業できる案件を掲載。現在は建設会社の人事部門からの依頼で採用戦略アドバイザー(月額5万円)を募集している。佐久市への交通費は支給され、従事期間中はワークテラス佐久も無償利用できる。
東京に近くてITに強い街へ
佐久がどんな町か知りたい人向けのイベントも開いている。
「ローカルシフトのイベントと称して、自然豊かな佐久を知ってもらい、地域のキーパーソンを紹介しています。自分を解放しながら地域の人たちを知って仲良くなってもらうのが目的です。イベント後もフェイスブックで活発な情報交換がされて、全参加者7人のうち、なんと4人が移住を決意したんです。全員が佐久でIT、Eコマース、コンサルなどの事業を立ち上げ、仕事につなげました。佐久市に住みながら東京の仕事を続け、地域の事業もするというスタイルも生まれています」
仕事から探すのではなくて、つながりを深めるところから始めた方が、結果的に仕事に結びつくケースもあるのだ。
「東京の仕事は辞めたくないけれど地域の仕事にも関わりたいという方からの相談が増えています。現在多い案件は、ウェブサイトやEコマースなどのIT系や動画制作などです。SNSに強い若者やクリエーティブ層は今後、地域で活躍できる可能性が高そうです」
佐久市は神戸、自由が丘と並んで、人口に対して洋菓子店が多い「日本三大ケーキのまち」でもある。お菓子好きでITの技術がある人、デザイナー、パティシエなども仕事のチャンスがありそうだ。市ではSlackを活用した行政初の移住オンラインサロン「リモート市役所」を立ち上げて情報発信・交換もしている。東京から近くITにも強い。そんな町から変化が起き始めている。