修学旅行の中学生が美術館作品を破損…子供と親の責任能力と賠償額はどうなる?

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 子供を持つ親としては他人事ではないだろう。修学旅行中の中学生が、訪問した美術館で展示中の作品を壊した一件だ。被害を受けた美術館は警察に被害届を提出。現在は捜査中で、故意か過失かは不明だが、故意だとしたら、ちょっとふざけ過ぎだろう。子供や親の責任はどうなるのか。

  ◇  ◇  ◇

 被害を受けたのは、新潟県十日町市にある「越後妻有里山現代美術館 MonET」で、現代アートの祭典「大地の芸術祭」の参加作品だ。新潟市立の中学校が今年4月、修学旅行でこの美術館を訪問したところ、中学3年の複数の生徒が2つの展示作品を壊し、そのうち床に展示されていた1つは修復できない状態だったという。

 生徒らは学校の聞き取りに「踏んでしまった」と答えているらしい。仮に床に設置された作品の端を、たまたま踏んだり、蹴飛ばしたりすれば、作品の一部が壊れる程度ではなかろうか。修復不能なほどに壊れた現状から考えると、故意に踏んだと理解するのが自然だろう。

 これについて作者のクワクボリョウタさんは、ツイッターに「作品の破損に関してのコメント」を投稿。そこには、「誰でも若いうちはちょっとした失敗をするもの」と中学生への配慮をにじませている。作品の修復は可能だとした上で、「修復を通じて、この事件が彼らや彼らのコミュニティ、そして芸術を愛する人々に悪い爪痕を残さないよう、最善を尽くしたい」とPR。ネット上では、度量の深い対応に拍手喝采だ。

 これにホッとしているのは中学生だろうが、中学生の責任を問うことはできないのか。弁護士の山口宏氏が言う。

■中学生はアリ ない袖は振れないが…

「結論からいうと、責任を問うことは可能です。民法第712条は、未成年者の責任能力を規定。『未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない』としています。これまでの判例を見ると、責任能力がないとされる年齢は多くが11~12歳で、つまり小学生。本件は中学3年生ですから、責任を問うことは可能です」

 自転車で人とぶつかって相手にケガを負わせた、サッカー野球などのボールを誰かにぶつけた、ボールなどで家や車などを損傷させた、といった行為が中学生や高校生なら、責任を問われることは十分ありうるということだ。

14歳以上は刑事で逮捕・勾留の恐れ

 今回のケースに戻ってみよう。作品を所有する十日町市は、修復するための費用などについて、新潟市に損害賠償を求める方針だという。中学生ではなく、学校を管理する新潟市を相手にした格好だ。なぜなのか。山口氏が続ける。

「本件は、修学旅行という学校行事の中で生じたことなので、中学生個人だけでなく、学校の監督責任も問題になります。理論上は、どちらの責任を追及することもできますが、重要なのが賠償能力です。中学生に損害賠償を請求して、判決が出たとしても、ない袖は振れません。十日町市もそこに着目したのだと思います。学校の管理責任を追及して新潟市を相手に損害賠償を請求する戦略なら、一定の賠償額を得られますから」

“大人の対応”で日本はもとより、世界にも名前を売った作者はそれでいいかもしれないが、大きな損害を被った美術館はそれで済まない。確実に損害賠償を請求するにはどうするか。そんな現実的な対応を考えた十日町市は、新潟市に損害賠償を請求するわけだ。新潟市の中原八一市長も「十日町市と賠償につきましては協議を進め、新潟市としての責任をしっかり果たしていきたい」と語っている。

 カネのことは、シビアな視点が不可欠ということだろう。もうひとつの問題は、刑事責任だ。刑法第41条には、「14歳に満たない者の行為は、罰しない」とあり、14歳未満は刑事責任能力がないと見なされる。今回のケースは中学3年で、14歳か15歳なのがミソ。

「一般論として、14歳以上の中学生が刑事事件を起こした場合、刑事責任が問われ、逮捕される可能性があります」(山口氏)

 美術館は警察に被害届を出しているから、捜査の結果次第では、器物損壊罪などで逮捕される生徒がいるかもしれないのだ。逮捕後、最大72時間以内に釈放されなければ、検察に送致されて勾留される恐れもあるというから大変だ。

 中学生のイタズラや事故については、“ない袖は振れぬ”で、民事での損害賠償請求を免れたとしても、刑事では逃げ切れるとは限らない。重い罪を償わされるリスクがある。そうなると、親も“ウチの子に限って”ととぼけた対応では済まない。

 逆にいうと、中学生や高校生が加害者の事案に遭遇したら、民事と刑事でのシビアで現実的な対応の取り方が、“被害者の未来”を左右するといえなくもない。

親の監督責任が問われる可能性ゼロではない

 では、親の責任はどうなのか。今回は、修学旅行中の行為だったが、それが帰宅途中やプライベートでの行動だったら、学校の監督下にはない。そんなケースで中学生や高校生がイタズラや事故を起こしたら……。

「その場合、親の監督責任が問われる可能性はゼロではありません。それで、いざ民事で損害賠償を求めたとすると、その親が監督を怠っていたことの証拠を集めなければなりません。たとえば、親は子供にどんなところで、どんな遊びをさせているか。その遊びは適切で、危険性はないか。どんな指導や監督を行っているか。そういうことは相手の家庭内でのこと。そこから怠慢の事実をそろえるのは極めて難しい。中学生や高校生が何らかの事件の加害者だと、親の監督責任を追及して損害賠償を請求するのは厳しいのが現実なのです」(山口氏)

 親の監督責任が問われやすいのは、小学生以下だという。民法第712条の責任能力については前述の通りで、12歳くらいまでは責任能力がないとされる。年齢が下がれば下がるほど、その力を欠くだろう。

「責任能力のない子供については、法定監督義務者が監督者責任を問われます。法定監督義務者は、一般に保護者です」(山口氏)

■自転車事故で1億円近い賠償も

 小学生のイタズラや事故で、親の監督責任が追及され、賠償責任が認定されるケースは相次いでいる。たとえば、昨年9月の徳島地裁判決では、2018年に住人2人が死亡したアパート火災について、男児(11)の火遊びが原因だったとして母親に遺族への賠償約3160万円の支払いを命じている。親は判決を不服として控訴したが、過去にはもっと高額な損害賠償が認められた判決もある。特に自転車事故では、小学生から高校生の事故まで広く親の監督責任が問われている。

 13年の神戸地裁判決では、小学5年生の自転車事故で意識が戻らない状態になった62歳の女性について、母親に慰謝料など9521万円の支払いを命じた。自転車事故については、高額賠償に備えた保険の加入を義務付ける自治体が増えているが、未加入で1億円近い賠償となるとシャレにならない。子供のしつけは、きちんとやるに越したことはないのだ。

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