「死んでいればよかったね」実親の言葉…重度障害児を抱える母親の慟哭

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「自分の母親から『死んでいればよかったね』って、この子が生まれたときそう言われました。子どもの誕生を喜べないってどうなんでしょうね…。この子の介護は一生続きます。この子の介護生活の中で、その言葉はいつも頭の中に残っているんです。これが実の母親の本音なので……」

 ベッドに横たわるのは、山崎育子さん(45、仮名)の三男である、陽樹君(7、仮名)だ。陽樹君は双子の兄で、上に中学1年生になるお兄ちゃんがいる。

 陽樹君は2014年、妊娠33週で、陽樹君、そして、弟の勇樹君とともに、この世に誕生した。しかし、陽樹君は仮死状態で出生──。

 母親の育子さんは、当時を振り返り、母親に陽樹君を否定されたこと、そして、夫の和明(46、仮名)さんが「しょうがないじゃないか、生まれたんだし。心配するな。自分を責めるな。大丈夫だ」と、声をかけてくれたことに救われたと話す。

■「脳性麻痺」と診断され…1時間に1回、陽樹君の体位を変える

 NICU(新生児集中治療管理室)退院後、夫・和明さんの協力のもと、二人三脚で5人での生活が始まった。しかし、陽樹君との生活は想像を絶した。

「寝られないんですよ」。陽樹君は緊張のため、夜も寝られないという。緊張というと、理解しにくいかもしれないが、脳性麻痺の場合、脳からの指令がうまく働かないため、筋肉のコントロールができず、足や腕、体全体がけい縮、つまり突っ張ってしまうのだ。

「自分で体を動かせませんから、自分から抱きつくこともない、それに緊張で身体は突っ張ってしまう。相当な体重が抱っこのときもかかるんです。ずっと同じ姿勢でいると、身体に負担がかかるので、1時間に1回ほど、体位を変えてあげないといけないんです」

一生続く介護「でもせっかくつないでもらった命」

 食事も自分でとることができないため、朝6時から夜中2時まで、約2時間おきに胃ろうから、薬やご飯を注入する。育児、いや介護は7歳になった今も続き、そして一生続いていく。しかし育子さんは苦ではないと話す。

「生かす、生かされているのかなって思うときもあります。でもせっかくつないでもらった命ですし。周りになんといわれようが、私が元気でいる間は、一緒に暮らそうと思っています」

 育子さんと和明さんは、陽樹君が快適に過ごせるようにと、家のリフォームを行い、そして、福祉車両も購入した。

「ずっと抱っこで車からも家に運ぶために、雨に濡れるじゃないですか。だから、カーポートっていう大きな屋根をつけたんです」

 育子さんの自宅には、住宅街に似つかわない、業者用の屋根が設置されている。それを含め、段差を無くしたり、壁を取り除いたりと、総額約300万円のリフォーム代がかかった。しかし、いろいろなしばりがあり、国からの助成は一部しかない。

「どうやってもお金は足りないですね。福祉車両は新車は高いので、中古で約200万円のものを購入しました。決して夫の給料も高くはないですが、やりくりしていくしかない。私も働きに出たいですが、医療的ケアがある子どもは中々、預かってもらえないですし、支援学校の往復は約2時間かかります。まだまだこういった子を抱えて、働く環境は整備されていません」

社会問題になりつつある産科医療補償制度

 重くのし掛かる障害児家庭の経済的負担。その軽減を図るため、2009年産科医療補償制度がスタートした。重度脳性麻痺児の家庭に介護費用として総額3000万が支払われるのだ。多額に見えるが、一時金600万円が支払われた後は、月額10万円が20年間に渡り支払われるというもの。子の介護で働きに出られない家庭の母親にとっては、貴重な介護費用と生活費となる。

「それ、うちの子もらえなかったんです。重度脳性麻痺児なのに? 掛金を払っているのに? なんでって?」

 現在、この産科医療補償制度が、国会を揺るがす社会問題となった。育子さんのように、掛金を支払っているにもかかわらず、補償金が支払われないという事態が起きている。

 補償金は出産育児一時金から支払われる仕組みとなっており、妊婦1人1人が掛金を支払っている。つまり、妊婦の相互扶助のもと成り立っているのだ。

■補償対象外とされている子供は500人

「うちの子は少し早く産まれたため、個別審査というものに回されたのですが、当時は補償対象外になりましたが、その審査に医学的合理性がないことがわかり、2022年からは撤廃されたんです。審査が間違っていたのであれば、私たちも補償されるとばかり思っていたのですが、過去の補償対象外の子たちは、補償してくれなかったんです」

 剰余金は635億円あり、現在補償対象外になっている子どもたちは約500人。約150億円あれば、十分補償することが可能にも関わらず、国も厚労省は誤りを認めず、補償をしようとしない。

「この制度は、軽度の子がもらえて、重度の子がもらえない、不平等だって起きています。当事者がどういう思いでいるのか、どういった負担を感じているのか、厚労省と国には知ってもらいたい。そもそも、憲法14条の法の下の平等、児童福祉法第1条の福祉を等しく保障される権利に反しているとも思います」

 現在、育子さんは同じ境遇のお子さんを持った親の集まり「産科医療補償制度を考える親の会」に参加し、国に対し救済を求めている。

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