土井善晴さん 1日3食死ぬまで「一汁一菜」で問題なし 日本中で実践すれば食品ロスも解決

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土井善晴さん(料理研究家/65歳)

 ロシアのウクライナ侵攻や円安の影響などで、値上げが止まらない。どう節約するか、頭を悩ませる人が多い中、「一汁一菜」が改めて注目を集めている。節約の面だけではない。1日3食、食事作りを担当する人の「今日は何を作ればいいのか」といった心の負担も吹き飛ばしたこの人に話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ──一汁一菜という言葉を使い始めたのはいつくらいからでしょうか?

 著書「一汁一菜でよいという提案」を出したのは2016年です。遡るとその10年くらい前から、さまざまなところで「一汁一菜」の意味を話してきました。たとえば「幸せな家庭を持つには家庭料理が大切だけど、お料理ができない」という声に応えました。それまでの私の料理人生を書いたのが「一汁一菜でよいと至るまで」です。

 ──一汁一菜とは、味噌汁、ご飯、香の物(漬物)。

 ご飯を炊いて、具のたくさん入った味噌汁さえ作れば、食事になる。

 これは、もともと日本の暮らしにあったごく当たり前のこと。昔も今も仕事に忙しい日に、ご馳走は作れません。一汁一菜とは、「汁・飯・香」ご飯を炊いて「味噌汁」を作って、漬物をつければいいのです。味噌汁を具だくさんにしたら、おかずを兼ねるものになるので、味噌汁とご飯だけでOK。いろいろ季節の野菜に肉を何か入れることで、栄養的にも問題なし。一日3食、死ぬまで一汁一菜でも問題なし。

■和食にメインディッシュの考えはなかった

 ──もともと一汁一菜という言葉はなかった。

 西洋で生まれた「栄養学」を和食に当てはめたのが「一汁三菜」です。主菜が一品に副菜二品、それに味噌汁とご飯です。敗戦後、日本人もしっかり脂肪やタンパク質を取って西洋人並みに体を大きくしようと考えたのです。そもそも和食には、肉か魚かというメインディッシュなんて考えはなくて、野菜のおかずに味をよくする油揚げ(肉)が入るように、副菜を兼ねた主菜、主菜を兼ねた副菜で、献立の中に少しずつタンパク質や脂質が織り込まれていました。私たちの日常は一汁一菜という献立を基本に、気持ちや時間に余裕があれば、魚をつける、季節のおかずを添えるということでよいのです。

 ──味噌汁で塩分過剰摂取になると言われた時代もあった。

 日本人が毎日食べていた味噌がスケープゴートにされただけです。悪者を決めて安心する。味噌は日本人にとっての健康の要です。塩気よりも味噌の保健効果を見るべきです。緑の野菜の少ない東北などでは、運動量の少なくなる冬場にどうしても塩分を取りすぎる。今なら、ナトリウムを多く含む加工食品の方が問題かもしれません。表面的に見えないところに含まれている添加物にも注意するべきですね。日本人が長く食べついできた味噌汁とご飯を信じてください。

 ──一汁一菜でよいというご提案は、日々の料理に疲れている人の気持ちを楽にしてくれました。

 私が「一汁一菜」を伝えると、特に女性のみなさんは、顔がいっぺんに明るくなる。「肩の荷がおりた」「健康になった」「料理が好きになった」と話される方が本当に大勢おられる。SNSの投稿欄のコメントをぜひみてください。

 ──ダシさえ取らなくてもいい。

 ダシ汁がないと味噌汁は作れない、と思い込んでいる人は多くいるんです。でも、味噌をお湯に溶かすだけでもお味噌汁です。具だくさんのお味噌汁なら、お椀に一杯の具材と、お椀に一杯のお水を鍋に入れて、中火にかける。煮立てば、お味噌を溶いて少しなじませる。これでお味噌汁の出来上がりです。さまざまな具材から旨味が出て、ときどきの美味しさになるものです。ダシ汁はあれば入れたらいいし、コクが欲しかったら油で具材を炒めればいいのです。ダシ汁はあくまで一つの要素、味噌汁とセットではありません。

 具材は今あるものをなんでも入れてみてください。味噌汁の楽しみには無限の広がりがあります。味噌の種類には豆味噌、麦味噌、米味噌、白味噌……甘味のものから渋いものまで。一種類でもいいし、好みでこれらを合わせてもいいのです。

■味噌汁に「入れてはいけないもの」はない

 ──中に入れる具材もなんでもいい。土井さんの著書に草餅が入っている味噌汁の写真が掲載されていて、驚きました。

「こうでなくてはいけない」と、みなさん、思い込みがあるようですね。豆腐とわかめ、大根と油揚げ、じゃがいもと玉ねぎといったお決まりの味噌汁ではなく、なんでも入れてみればいいのです。トマトやピーマン、パセリなどの洋風の野菜、それに油揚の代わりに、鶏、豚はもちろん、ソーセージやベーコン、ちくわでもいいんです。タンパク質のものを入れると旨味が出て美味しくなります。具材を炒めても旨味以上のコクが出ます。物足りなければ卵を割り入れて味噌汁で、好みの加減に火が通るまで、煮込んでください。味噌汁でワンタンを煮込んでもいいし、うどんや餅を入れても構わない。全く自由自在なんですね。味噌汁に入れたくないものはあっても、入れてはいけないものはありません。それが味噌汁の凄さ。私も日々、味噌や味噌汁の万能性に驚いています。ずいぶんお味噌汁が気になるようですが、『お味噌知る』(世界文化社)という本を出しているので参考になさってください。

 ──一汁一菜は、お金もかからない。

 お金も時間もかかりません。それで健康になって、笑顔で食事ができるのですから、こんな安いものはないでしょう。『インスタント味噌汁でもいいですか?』と言う人もいるけど、お味噌ってそもそもがインスタントなんですね。

 ──不況の時代、なんとか生きていくだけで精一杯で一汁一菜どころじゃない、という人もいるかもしれません。

 一汁一菜どころじゃない? それどころじゃないって、何を召し上がっておられるのか、これよりも楽ちんで、栄養が取れて、経済的なものって何かあるのでしょうか、教えていただきたい。

 一汁一菜は自分だけの問題ではないのです。もし、日本人全員が一汁一菜を実行すれば、家庭における食品ロスは解決してしまうんです。

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