著者のコラム一覧
田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

「幼稚舎出身→慶応ボーイ」の上場企業トップが10人前後と少ない理由

公開日: 更新日:

 現在、上場企業の社長の出身大学で一番多いのは慶応。その数は288人と2位の早稲田を約60人も上回るなど、他大学を圧倒する。「企業のトップを目指すなら慶応に入るのが近道」(証券会社調査担当)なる定説が生まれつつある。

 慶応といえば幼稚舎が真っ先に思い浮かぶが、「OB・OGで今も上場企業の社長の座にあるのは10人前後とみられ、それほど目立っているわけではない」という。

「お坊ちゃま、お嬢さまが多い幼稚舎には、他人を押しのけてまでトップをとろうとするタイプはほとんどいない」と話すのは自身も幼稚舎で学んだ慶応大元教授だ。元々、親が企業のオーナーといった幼稚舎生も多く、必死に上を目指すバイタリティーに欠けるともいわれる。

 家業を継いで、そのままトップに収まるケースも少なくない。九州財閥の雄「麻生」の麻生泰会長・巌社長の親子はいずれも幼稚舎出身。なお、泰氏の実兄の麻生太郎元首相は小3から大学まで学習院である。

 自動車の燃料噴射装置を製造するミクニの社長・生田久貴氏は幼稚舎時代から続けるラグビーで日本代表にもなった逸材。三菱商事に勤めていたが、父親に説得され家業を継いだ。ミクニを東証2部から1部(現プライム)に押し上げた立役者でもある。

 1984年度全国大学選手権決勝(85年1月6日)で生田氏とともに試合に臨んだのが幼稚舎からの同級生・玉塚元一氏だった。平尾誠二選手を擁する同志社大に惜しくも敗れたが、この年のチームは慶応大ラグビー史上最強といわれた。監督はトヨタ自動車の社員でやはり幼稚舎出身の上田昭夫氏。その後フジテレビに転職し、ニュースキャスターを務めた。

 一方、玉塚氏は大学卒業後、旭硝子(現AGC)に就職。日本IBMに転職するものの、在籍したのはわずか4カ月だった。

 営業先のファーストリテイリングで柳井正社長と出会い、再び転職。4年後、同社の社長に就任した。「幼稚舎らしい育ちの良さがにじみ出ていて嫌みがなく、行く先々で経営者に気に入られるんです」と慶応大ラグビー部OBは振り返る。

■失敗が傷になりにくい

 玉塚氏はかつて存在した玉塚証券創業家の末裔。ファーストリテイリングでは柳井氏の満足を得られず、3年で社長退任を余儀なくされるが、その後も華麗な経歴を積み上げていく。ロッテリア会長、ローソン社長、ハーツユナイテッドグループ(現デジタルハーツHD)社長を歴任。一昨年6月、ロッテホールディングスの社長に就任した。

「失敗も少なくないのに、それが傷にならない。幼稚舎が加わった慶応ボーイの看板は相当な強みで、こうした人材は“捨てる神あれば拾う神あり”が繰り返される」とヘッドハンティング会社の幹部は話す。

 玉塚氏は自身の子どもを3人とも幼稚舎から慶応に入学させている。その強みを最も知っている一人に違いない。



◆田中幾太郎の著書「名門校の真実」」(1540円)日刊現代から好評発売中!

■関連キーワード

最新のライフ記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 暮らしのアクセスランキング

  1. 1

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  2. 2

    クマ駆除を1カ月以上拒否…地元猟友会を激怒させた北海道積丹町議会副議長の「トンデモ発言」

  3. 3

    露天風呂清掃中の男性を襲ったのは人間の味を覚えた“人食いクマ”…10月だけで6人犠牲、災害級の緊急事態

  4. 4

    クマ駆除の過酷な実態…運搬や解体もハンター任せ、重すぎる負担で現場疲弊、秋田県は自衛隊に支援要請

  5. 5

    クマと遭遇しない安全な紅葉スポットはどこにある? 人気の観光イベントも続々中止

  1. 6

    石狩市民図書館(北海道)鮭、石狩鍋、俳句関連が豊富、新鮮な野菜も買える

  2. 7

    倉田真由美さん「人生100年もいいけれど、一日一日を悔いなく生きたい」…夫の死を機に死生観・人生観に変化

  3. 8

    青森県の紅葉名所でクマが箱わな破壊し脱走の仰天…総入れ替えしたばかりだったのに

  4. 9

    クマ出没地域はどこも疲労困憊、我慢の限界…秋田では男女4人襲われ1人死亡3人重傷

  5. 10

    小川晶市長「ラブホ密会」の震源地…群馬・前橋市のナイトスポットで“まさかの声”続出

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    高市政権マッ青! 連立の“急所”維新「藤田ショック」は幕引き不能…橋下徹氏の“連続口撃”が追い打ち

  4. 4

    YouTuber「はらぺこツインズ」は"即入院"に"激変"のギャル曽根…大食いタレントの健康被害と需要

  5. 5

    クマと遭遇しない安全な紅葉スポットはどこにある? 人気の観光イベントも続々中止

  1. 6

    和田アキ子が明かした「57年間給料制」の内訳と若手タレントたちが仰天した“特別待遇”列伝

  2. 7

    藤川阪神で加速する恐怖政治…2コーチの退団、異動は“ケンカ別れ”だった

  3. 8

    阪神・才木浩人が今オフメジャー行きに球団「NO」で…佐藤輝明の来オフ米挑戦に大きな暗雲

  4. 9

    「渡鬼」降板、病魔と闘った山岡久乃

  5. 10

    元大食い女王・赤阪尊子さん 還暦を越えて“食欲”に変化が