「あなたの秘密は?」毎夜、女に探られて…“ハニートラップ”にハマった豪傑な男の末路
英雄といえばサムソン!
職場や近所、SNS界隈に現れる「残念な人」、いますよね。実は今から約2000年前から現在に伝わる「聖書」にも「残念な人」がいるのです。
SNSで聖書を面白くわかりやすく伝える活動を続けている上馬キリスト教会ツイッター部のMAROさんは、世界的なベストセラーの聖書は「人間の残念さの歴史」とし、残念だからこそ救われ、人からも神様からも愛されるのだと解説しています。
『聖書のなかの残念な人たち』(笠間書院)より聖書に登場する人たちの「残念」な失態エピソードを一部抜粋・編集してご紹介します。
日本の戦国時代なら本多忠勝や前田慶次、中国の『三国志』なら関羽や張飛、華々しい歴史ドラマの中には、必ずと言っていいほど剛力無双の豪快で痛快な英雄が登場します。
聖書にもそんな剛力無双の英雄として、サムソンという人が登場します。
ただ、サムソンはたしかに剛力無双なんですが、英雄というよりもただの乱暴者に近いような行動が目立つ、ちょっと残念な人物でもあります。
モーセとその後継者ヨシュアをリーダーとして、イスラエルの民は出エジプトの旅を完遂し、神様に約束されたカナンの地に住むことになりました。その何百年にも及ぶ長い生活の中で、民やコミュニティを守るためにリーダーとして活躍したのが、士師と呼ばれる人たちです。
士師は常に存在する役職ではなく、他国からの侵略や抗争など、民族がピンチに陥ったときに神様から臨時に任命され、リーダーを務めるような人たちでした。彼らの言行を記録した旧約聖書の『士師記』には、デボラやギデオンなど12名の士師が登場します
が、なんといっても一番有名なのはサムソンでしょう。クリスチャンであっても「士師と言えばサムソン! 他は正直あんまり知らない!」という方も少なくないかと思います。
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腕力の強い豪傑
サムソンはとにかく剛力無双、万夫不当の一騎当千といった人物で、ライオンと素手で戦って引き裂いたとか、100匹のジャッカルの尻尾を結びつけたとか、ロバの骨を振り回して1000人の敵兵をやっつけたとか、とにかく恐ろしく腕力の強い豪傑でした。
イスラエルの民はペリシテ人という人たちの侵略に苦しんでいました。神様はマノアという人に
「君に子どもを授けるよ。その子はペリシテ人から君たちを助ける英雄だよ。
でも、その子は私に一生を捧げる子だから、汚れたものを一切食べさせてはいけないし、お酒も一滴も飲んではいけないし、散髪をしてもいけない」と言って、子どもを与えました。
その子がサムソンです。
長い髪こそパワーの源
そんなわけでサムソンは大人になっても一度も髪を切らず、長い髪を持っていました。その長い髪こそが、彼の人間離れしたパワーの源だったんです。
たしかにサムソンは強く、ペリシテ人を何度も打ち破り、イスラエルの民を守りました。
しかしその一方で、あまり素行が良いとは言えません。
敵であるペリシテ人たちと一緒に宴会をやったり賭け事をしたり、その賭け事に負けるとその支払い金を他のペリシテ人から奪い取り、それで文句を言われると暴れ回って1000人もの人を殺したり…筋も義理もあったもんじゃありません。
そんな言動のせいで縁談を断られると、その家の一帯を焼き払い、それを咎められるとまた暴れて何人もの敵を殺したり…。
賭けをした相手も、婚約をした相手も、焼き払った相手も、殺した相手も、みんな敵であるペリシテ人なので、考えようによってはこれもペリシテ人を困らせるためのサムソンの策略のようにも思えないこともないのですけれど、それにしてもやることがメチャクチャすぎる…。
他の歴史ドラマに登場する剛力無双の英雄というのはたいてい、多少乱暴なところはあっても彼らなりの義理や筋は通すものです。だからこそ、英雄は英雄として後世まで愛されるものです。しかしこれではほとんどただの乱暴者です。
ハニトラにまんまとハマる
挙句の果てに、サムソンはペリシテ人の女性を愛し、「あなたの力の秘密はな〜に?」と夜ごとに何度も聞かれ、ついに「僕の力は僕の髪の毛を切ったらなくなってしまうんだ」と教えてしまいました。
そしてその愛する人に髪をそられ、そこに押し入ったペリシテ人の兵隊に囚われてしまいました。絵に描いたようなハニートラップにハマって身を滅ぼしてしまったんです。
どんな人でも、愛する人には自分の弱点をさらけ出したくなってしまうものです。
愛する人の前では「強さ」の鎧を脱いで楽になりたいと願うものです。その思いはもしかしたら強い力や権力を持てば持つほど大きくなるのかもしれません。
この人の前だけは、この夜だけは、子どものような弱い自分として眠りたい。そんな気持ちは古今東西あらゆる英雄の最後の弱点でもあり、また英雄ではない僕たちでも同じように持つ、避け得ない弱点なのかと思います。
そしてそんな気持ちを持つ限り、僕たちはサムソンのことを「ハニートラップにハマった残念な人」と、他人事のようには笑えません。聖書随一の強さを誇る豪傑でさえ避け得なかった弱さを、僕たちもまた同じように持っているのですから。
自分の使命をまっとう
しかし、そんなサムソンも、その最期は英雄として語るにふさわしいものでした。ペリシテ人にさんざん虐げられ、目をえぐられ、無力に嘲笑されるままになっていたサムソンでしたが、その虐待の日々のうちに彼の髪は再び長くなっていました。サムソンは神に祈りました。
「ああ神様もう一度だけ、私に力を与えてください」
すると神様から力が再び与えられ、サムソンはペリシテ人の神殿の柱を引っこ抜き、神殿とそこにいたペリシテ人のリーダーたちを、自分の命もろとも破壊しました。
乱暴で無謀なことを繰り返したサムソンでしたが、最後は主なる神に立ち返り、イスラエルの民を守るという自分の使命をまっとうして生涯を終えたのでした。
書籍情報『聖書のなかの残念な人たち』
書名 : 聖書のなかの残念な人たち
著者 : MARO(上馬キリスト教会ツイッター部)
発売日: 2025年5月26日
頁数 : 288ページ
定価 : 1,980円(税込)
出版社: 笠間書院
(MARO(上馬キリスト教会ツイッター部) )