「#東京アパート」吉田篤弘著
「#東京アパート」吉田篤弘著
あるアパートを通りかかった時、ほのかな甘い香りがした。水島は不愉快なことがあると左のまぶたの筋肉がけいれんするのだが、それがすっと消えた。
住んでいたアパートを引っ越すことになって、そのアパートに決めた。匂いがした部屋の隣の部屋だった。
ある日、隣室に住む俳優の倉多アキが「ケーキを焼いたんです」とやってきた。黒くてゴツゴツして「悪魔の魂」のようなケーキだったが、経験したことのない味わいと食感が口の中に広がった。以前、水島の部屋に住んでいた住人が遺したレシピだという。(「天使が焼いた悪魔のケーキ」)
ほかに「幽霊の電話」など、愛おしい21の物語。 (角川春樹事務所 1980円)