笑いあり!涙あり!家族を描く物語特集
「残された人が編む物語」桂望実著
一番大切な存在ではあるが、身近過ぎて、時に厄介だったり、面倒くさかったりするのが家族だ。ゆえに、小説の題材としても事欠かない。今週はホロッときたり、切なかったり、ニヤッとさせられたりなど、さまざまな家族を描いた物語を紹介する。
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「残された人が編む物語」桂望実著
53歳の亜矢子は、他界した母親の遺産相続の手続きのため弟・和也の行方を捜す。幼いときから怒りっぽく、見境もなく暴力をふるう和也が原因で、亜矢子は片耳が聞こえない。高校を卒業後に就職先の寮に入って以来、亜矢子は和也と会っていなかった。その後、高校を中退した和也も家を出たが、母とは連絡を取り合っていたようだ。
しかし、母から教えられた和也のアパートは10年も前に取り壊されていた。亜矢子は行方不明者捜索協会という民間業者に和也の捜索を依頼。担当者の静香の助言で、警察のデータベースで身元不明者情報を調べると、見覚えのある詩集が見つかる。それは遺体で発見されたホームレスの所持品だった。DNA検査でそのホームレスが和也と判明。亜矢子は静香の協力を得て、生前の弟の足跡をたどる。(「弟と詩集」)
ほかにも、かつて組んでいたバンドのメンバーを捜す公務員など、身近な人の失踪によって喪失を抱える人々の心の回復を描く短編集。 (祥伝社 1012円)
「君といた日の続き」辻堂ゆめ著
「君といた日の続き」辻堂ゆめ著
雨上がり、近所に買い物に出かけた譲は、女の子を「拾う」。ずぶ濡れで道路にしゃがみこんでいた少女を見過ごすことができず、声をかけるが話がかみ合わない。ちぃ子と名乗った少女は、新型ウイルス感染症が流行していることも知らず、今が2021年だと知ると動揺する。譲は、交番に連れていかれることを拒むちぃ子を仕方なくアパートに連れ帰り、大切に保管していた娘・美玖の服を着替えとしてちぃ子に渡す。
1年前、譲は10歳だった美玖を病気で亡くし、娘の死が受け入れられず妻の紗友里と離婚して、今は1人暮らしだった。見るもの聞くもの全てを珍しがるちぃ子との会話から、どうやら彼女は1980年代からタイムスリップしてきたようだ。その夜、譲は千佳という少女のことを思い出す。児童養護施設で暮らしていた千佳は、37年前、譲らと遊んだ日の夜、事件に巻き込まれ、数日後に遺体で見つかったのだ。
過去から来た少女と中年男のひと夏を描く感動必至のミステリー。 (新潮社 880円)
「カレーの時間」寺地はるな著
「カレーの時間」寺地はるな著
桐矢の25歳の誕生日に家族と親戚が自宅に集まった。母と姉、そして母の姉2人とその娘、すべて女性だ。父は単身赴任でほとんど自宅におらず、桐矢はこの女性だらけの環境で育ってきた。
桐矢の誕生日は口実で、集まりの目的は、先日、救急車で搬送された1人暮らしの祖父・義景の今後についてだった。娘3人は、昔かたぎで横柄な義景とできるなら関係を持ちたくない。桐矢も祖父のことは苦手だ。そんな話し合いの最中、突然、義景が現れた。桐矢の誕生日を覚えていたらしく、持参した紙袋にはかつて祖父が勤務していた食品会社のレトルトカレーが大量に入っていた。娘たちから今後の心配をされた祖父は、桐矢となら一緒に暮らすと言い出す。
渋々、祖父と暮らし始めた桐矢だが、がさつで、横暴で無神経な祖父とうまくやっていけそうもない。ただ、2人でカレーを食べる時間だけは祖父との距離が縮まる。
誰にも言えない秘密を抱える祖父と孫の双方の視点から描く家族小説。 (実業之日本社 880円)
「汝、星のごとく」凪良ゆう著
「汝、星のごとく」凪良ゆう著
瀬戸内海の島の高校に通う17歳の暁海は、毎日が息苦しくてならない。父が隣島の愛人宅に入りびたりで、母はその父の帰りを家で待ち続け、島中がそのことを知っているのだ。
ある日、母から父を連れて帰ってくるよう頼まれた暁海は、放課後、港にいた同級生の櫂を道連れにして隣島に向かう。転校生の櫂とはそれまで親しくもなかったが、港で彼の母親から2人が交際中と勘違いされ、強引に連れてきた。
櫂の母は、恋人の後を追ってこの島にたどりついた。櫂は、幼いときからそんな恋愛体質の母に振り回されてきたのだ。
父の愛人・瞳子さんは自然体で2人の訪問を受け入れ、結局、暁海は何も言い出せない。以来、島の暮らしに生きづらさと孤独を抱える暁海と櫂の仲は急速に深まる。
そんなある夜、暁海は、母が物置の灯油を持ち出して出かけたことに気づき、櫂に助けを求める。
ヤングケアラーの2人の愛と別れ、そしてその後を切なく描いた2023年本屋大賞受賞作。 (講談社 990円)