陰謀論はやまず
「社会分断と陰謀論」雨宮純ほか著
トランプ第2期政権が始まって既に7カ月。世界はふたたび陰謀論の嵐だ。
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「社会分断と陰謀論」雨宮純ほか著
若手から中堅のライターや研究者ら8人が集まった論集。その冒頭で「分断」とはなにかを議論している。
社会の中に差異があるだけでは分断にはならない。差異が対立に結びつき、社会を分離化させる。
アメリカでいえば「アメリカン・ドリーム」への信頼がなくなった。背景の最大要因は経済の上下格差。それが政治の左右対立に組み込まれるだけではない。かつてはマイノリティーとマジョリティーの間が離れていたが、いまはマイノリティーが票田として存在感を示すために集団間が「近く」なっている。それも分断の一因という。
これにぐっと力を貸したのがSNS。都市伝説などは昔は笑い話ですんだが、いまは都市伝説がSNSで簡単に陰謀論に転じる。
しかも反動的な政治勢力がそこに加担。たとえば国士舘大の100周年記念事業では、米占領軍が日本に「戦争の罪悪感」を植え付ける秘密計画を実施したために「自虐史観」が定着したのだと主張するシンポジウムが開かれた。
こうした実例を紹介しつつ、「虚偽情報があふれる時代の解毒剤」(副題)を提供するのが本書だ。 (文芸社 2200円)
「となりの陰謀論」烏谷昌幸著
「となりの陰謀論」烏谷昌幸著
陰謀論とは何か。本書によれば「出来事の原因を誰かの陰謀であると不確かな根拠をもとに決めつける考え方」だ。しかしそれ以上に陰謀論には後ろ暗いところがある。マイケル・バーカンという政治学者はこれを「烙印を押された知識」と呼んでいるという。つまり何かうさんくさく、いかがわしい臭いがするわけだ。
さらに著者は、陰謀論は「世界をシンプルに解釈したいという欲望」から来るという。ありそうもない偶然の一致を謎のまま受け取ることができず、誰かの陰謀と考えるとスッキリする。また「何か大事なものを『奪われる』感覚が陰謀論を誘発する」と著者はいう。ケネディ大統領暗殺が陰謀だとする説が絶えないのはここから来るのだ。
9.11同時多発テロを陰謀と考える場合も「政府は事前にテロ情報をつかんでいたのに手を打たなかった」という信じ方と「すべて闇の政府の自作自演だ」とするのでは、同じ陰謀論でも大きく異なる。つまり陰謀論の境界線は案外あいまいなのだという。
さまざまな経験的事実をもとに話し言葉で解説する陰謀論入門。 (講談社 990円)
「ポピュリズムの仕掛人」ジュリアーノ・ダ・エンポリ著 林昌宏訳
「ポピュリズムの仕掛人」ジュリアーノ・ダ・エンポリ著 林昌宏訳
ポピュリズムは大衆扇動だが、現在ではSNSによって大衆が大衆を扇動する時代だ。しかしそれも単なる自然現象ではない。
本書はイタリアこそが現代の「ポピュリズムのシリコンバレー」だという。本書が注目するのは2013年の総選挙で得票率1位となった政党「五つ星運動」。水・エネルギー・開発・環境・交通の5つを主要関心事として掲げる政党は、マーケティングの専門家がコメディアンの振付師となって立ち上げたポピュリスト政党。当初、中道左派に自らを売り込んだが相手にされなかったことから独自の組織化を図った。
そのコツはSNSを「蟻塚」と捉えること。アリは独自に行動するが、実はほかのアリの行動に従うという本能に忠実に動く。それはちょうど現代のオタクがSNSを自分の意思で拡散させると思い込むのと同じというわけだ。それはかつてムソリーニが率いたスクアドリズモ(ファシスト民兵運動)をデジタル空間に再現するようなものだったという。
そこに目をつけたアメリカのスティーブ・バノンはトランプ政権1期目を成立させた闇の仕掛け人でオンラインメディアの創設者。まさにネット空間は右派ポピュリズムのたまり場だ。 (白水社 2420円)