宮内悠介(作家)
7月×日 妻が某老舗本格中華チェーンに行ったらしく、土産に麻婆豆腐の残りを包んで持ってきた。家では麻婆豆腐担当なのでさっそく食べてみる。まず花椒粉の香りが全然違う。うちのは出来あいの粉なので、ミルを導入するのがよさそう。それからスティーヴ・ライヒ著「スティーヴ・ライヒ対談集」(大西穣訳 左右社 5610円)をぱらぱらと読む。「残念ながらもうわたしはツアーには行けない」とあり、時の流れを感じる。
7月×日 こしょうとかと違って、花椒はうまくすれるミルが少ないらしいと知る。よくわからないので、とりあえず市販のミルつきの花椒を注文してみた。
SNSで存在を知って注文した「エレクトロニカ・アーカイブス1997-2010サンレコ総集版」(リットーミュージック 2970円)が届く。エイフェックス・ツインにはじまるインタビュー集で、めちゃくちゃ懐かしい。
8月×日 清野とおるの漫画「『壇蜜』」(講談社 792円)を読む。くだんの中華の某有名店が出てくる。それも2回も。ミルつきの花椒が届く。少しすってみる。悪くない。悪くないので、詰め替え用にホールの花椒を注文する。百グラム。これでいろいろ試せそう。
8月×日 注文していたユキミ・オガワ著「お化け屋敷へ、ようこそ」(吉田育未訳 左右社 2970円)が届く。著者は小説家界隈でずっと話題になっていたかたで、なんと日本生まれの日本育ちでありながら、英語で書いたSFやファンタジーを英語圏の文芸誌等で発表しているのだ。短編集で、古い作は2013年までさかのぼる。話題になるのはやはり、実際にそれをやれないかと、多くの人が一度ならず考えるからだろう。自分も英語で書いてみたことがある。というわけで、これは待っていた1冊。
短編をいくつか読み、満を持して麻婆豆腐を作る。花椒は断然おいしくなった。某有名店のにもけっこう近づいた。でも某有名店、もういいや、銀座アスターのほうが深みがある。