業界人「あの子、お気に入り枠だから」の噂。芸能界に渦巻くタレント達の“自尊心と屈辱”のはざま
真偽不明の噂に現場の空気は一変
「この子、社長のお気に入りだから」
そういう一言を、私は何度となく耳にしてきた。現場に漂う空気は一瞬で変わる。誰もが口には出さないが、そこには「愛人枠」という言葉が透けて見える。
もちろん公式にはそんなものは存在しないし、事務所も関係者も否定するだろう。でも、当事者たちの会話の端々に、噂の断片が滲み出てしまうのだ。
ある新人タレントの話を聞いたことがある。彼女はオーディションで合格を勝ち取り、いざ撮影の場に立った。
しかしそこで待っていたのは、想像していた華やかな演技や撮影ではなく、妙な“待遇”だった。まだほとんどテレビにも出ていないのに、他の新人より衣装もメイクも優遇され、マネージャーすら口を挟めないほどの「特別扱い」。
業界の先輩たちは冷ややかに言った。「あの子、愛人枠だから」。
もちろん、真偽は誰にも分からない。だが現場の空気が「そういうこと」だと納得してしまっているのが恐ろしいのだ。誰も確かめない。確かめられない。でも、なんとなく分かってしまう。
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ささやかれる噂
一度、飲みの席でベテラン俳優が笑いながらこう言ったことがある。「あの役、オーディションなんて建前だよ。結局は誰に気に入られるかだから」。冗談のように聞こえるが、周りの誰も笑わなかった。
むしろ、妙に現実的な重みがあった。彼自身も、その“掟”を見てきたのだろう。
枕営業という言葉は、都市伝説のように語られる。しかし、現場にいると「噂」だけでは片づけられないほどリアルに聞こえる瞬間がある。
楽屋でのひそひそ話や、飲み会での「察して」という視線。誰もはっきり言わないのに、全員が同じことを理解している。そんな空気に触れるたび、背筋がひやりとする。
実際に「愛人枠」と言われる子たちは、急に仕事が増えたり、いきなり主役級の役を任されたりする。
そのスピード感は、努力や才能だけでは説明できないように見えることもある。もちろん、純粋に実力でのし上がる人もいる。
それでも、「裏で誰かに気に入られているのでは?」という疑念は消えない。芸能界という場所自体が、そうした疑惑を生みやすい仕組みになっているからだ。
噂に飲み込まれた当事者たちは…
何より怖いのは、そうした“噂”に飲み込まれた本人たちの心境だ。
ある元タレントの友人は、悩みながらもこう打ち明けた。
「私、自分の力でここにいるんじゃないんだって思うと、立っている場所が急にぐらつくの」。
華やかに見えるステージの裏で、自尊心と屈辱の狭間に揺れる人たちがいる。
芸能界で成功することを夢見て飛び込んだ若者たちにとって、「愛人枠」の噂は最大の毒だ。
信じれば心が折れるし、無視すれば現実を見失う。だからこそ多くの人が口を閉ざし、表向きは「そんなもの存在しない」と言い続ける。
だが一方で、現場の空気はその言葉を裏切るように漂い続ける。
芸能界で生き抜くために必要なこと
結局のところ、「愛人枠」が本当にあるのかは誰にも断言できない。だが少なくとも、そういう“空気”が存在することは事実だ。
そしてその空気を吸い込み続けたタレントたちは、いつしか「自分もそう見られているのでは」と疑心暗鬼になっていく。
才能や努力だけでは測れない評価軸が、確かに存在してしまうのだ。
表に出るのは華やかな笑顔や演技だけ。でも、その裏では「誰に気に入られるか」という冷酷なルールが息づいている。私は何度もその影を見てきたし、今も耳を澄ませば、どこかの現場でまた同じ噂が囁かれている気がしてならない。
夢を追う若者にとって、その噂が真実であれ嘘であれ、心を揺さぶるには十分すぎる。
だからこそ、この世界で生き抜くには、ただの努力や才能以上に「噂に負けない強さ」が必要なのかもしれない。
(おがわん/ライター)