(1)「とりあえずの医者」は町医者にとって最高の褒め言葉
わたしは岩手の滝沢市で「ゆとりが丘クリニック」という医院をやっている。いわゆる「町医者」である。
放射線医として東京の大きな病院や大学病院に勤めたこともあるが、それは遠い昔の話。この地に開業したのは1999年冬のことだ。
このクリニックには地元の人が来る。というより、地元の人しか来ない。病院の予定、休診日、ワクチン接種のお知らせなどは「ゆとりが丘クリニック便り」というチラシをつくって、院内に掲示してある。その余白に「院長メモ」なる雑文を書いてきた。
エッセーのような日記のような、いい加減なもので、言ってみれば余白を埋める「埋め草」だった。それがある編集者の目に留まり、どういうわけか、「ゆとりが丘クリニック便り」(駒草出版)という本になった。その本に目を留めてくださったのが日刊ゲンダイの担当者だ。そして、この欄をいただいたのである。その担当者が殊の外、気に入ってくださったのは2020年2月に書いた「院長メモ」である。