ニッポンの軍国化?
在日米軍司令部が横田から赤坂に移転! そんな衝撃的なニュースも話題にならないニッポンの夏。
「ルポ 軍事優先社会」吉田敏浩著
「ルポ 軍事優先社会」吉田敏浩著
激化する一方のウクライナ情勢は日本のテレビやユーチューブ番組で最も取り上げられる話題の一つだが、たいてい「こういう事態は日本も無縁ではないですよね」というコメントとともに締めくくられる。
屈辱的なままの米軍の地位協定などそっちのけで、やれトランプ政権下では日米同盟も確実ではない、それなら日本の再軍備……などという方へ走り出してしまうのだ。そこに鋭く切り込むのが本書。
たとえ日本が攻撃されていなくても安保法制で強引に定められた「存立危機事態」の解釈に立つと何が起こるか。それを懸念する沖縄の人々がどんな反対運動を繰り広げているか。本土の大手マスコミがほとんど素通りするこれらの現実を見据える著者はフリージャーナリストとして日本の軍事化や再武装問題を鋭く追及し続けてきた。
若者を相手に「民間の年収より自衛官の方が有利、資格取得・再就職支援制度あり」などと勧誘するのも「経済的徴兵制」の実例だと鋭い。要するに格差社会の「下」にある若者は自衛隊に就職するのが一番、というインセンティブだ。
事故の多発するオスプレイの低空飛行を認めた日米合同委員会の米軍追従体質などにもしっかりと批判の目を向けている。
(岩波書店 1056円)
「軍拡国家」望月衣塑子著
「軍拡国家」望月衣塑子著
中国の軍拡化や東アジア有事の懸念が叫ばれる中、ふと気づくと日本の社会はいつしか軍拡に鈍感になった。そのかたわら5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、再軍備化への動きは着々と進む。かつての「武器輸出三原則」は1967年以来、文字通り武器輸出を原則全面的に禁止してきたが、2014年に策定された「防衛装備移転三原則」はこれを抜本改定。防衛装備品の海外移転を原則として認め、殺傷能力のある武器の輸出を一部容認した。
また他国と共同開発した武器の完成品の第三国輸出も、これまでは結論を先送りしていたが、自民・公明両党が次期戦闘機の解禁に限って合意。これを「平和主義からの逸脱」「『平和国家』を変質させる重大な政策変更」と断じたのが東京新聞。著者は同紙のスター記者として、本書では歯に衣着せず論争に挑んでいる。
(KADOKAWA 990円)
「検証安保法制10年目の真相」長谷部恭男ほか著
「検証安保法制10年目の真相」長谷部恭男ほか著
国会前の大規模デモなど大がかりな論争を呼んだ安保法制から既に10年。これに対する違憲訴訟は全国で行われているが、一昨年12月に仙台高裁が出した判決は集団的自衛権の行使を「部分的に」許容したものと報じられた。その受け止め方は本当に正しいのか? これが本書の趣旨。つまり「違憲性が明白であると断定することまではできない」という結論には多数の前提が付されており、法解釈に沿って読むと、集団的自衛権に関する解釈が政府によって変更されたとする見方自体が怪しくなってくるのだ。
この微妙な問題を、国会に参考人として招致された憲法学者、違憲訴訟にたずさわる弁護士、そして新聞記者の3人が解説し、対談や座談で論点を展開しつつ議論を繰り広げるのが本書。憲法9条の第1項と第2項についての従来の議論やその批判など、シロウトには手の出ない専門的な憲法論議も話し言葉で解説されるのがありがたい。よく読めば「集団的自衛権の行使は不可能」という結論が導かれるという。それを確信し、「ここから(軍拡化の動きを)押し返すんだ」という覚悟を示した本。
(朝日新聞出版 990円)