「富嶽蒸留所」富士の麓で眠る世界レベルのウイスキーで頂点を目指す男の挑戦
一年中、外国人観光客であふれる河口湖駅。眼前に迫る富士山を望みながら、車で15分ほど上ると、富嶽蒸溜所が見えてくる。標高1000メートル、夏でも涼しい。
ここに2028年11月の発売を目指した本格的ウイスキー「富嶽」の樽が眠っている。ホワイトオークのバーボン樽が並ぶ貯蔵庫に入ると、芳醇なウイスキーの香りが漂う。その樽の中には金色の金属プレートが打ち込まれ、名前が刻印されているものがある。樽の持ち主の名前である。ここ、富嶽蒸溜所では日本ではまだ珍しいカスクオーナー制度がある。自分の樽で、自分のウイスキーを熟成させ、楽しむ。究極の贅沢を味わう豪華なバーラウンジもある。カウンターやテーブルに使われているのは日本原産のミズナラ。日本のバーに「この人あり」といわれたウッドマスター、佐藤柱也氏が魂を込めた一枚板の上でグラスを傾けていると、木と大地の生命力が宿るような感覚になる。
このスペースの監修は伝説のエッセイスト、編集者であり、ウイスキー狂の島地勝彦氏。自らを「ロマンチックな愚か者」と称する島地氏は東京・西麻布に自分のバーまでつくってしまった。
富嶽蒸溜所を経営する「SASAKAWA WHISKY」代表取締役の笹川正平氏(46)は「富嶽」をつくるにあたって、島地氏に教えを請うた。島地氏はさまざまな難題を突き付けた。「スチーム加熱ではなく直火で蒸留しよう」「発酵にはステンレスではなく、木桶を使おう」「最高のバーラウンジもつくるんだ」──。
「金銭的な見返りはいらない。その代わり、俺の言うことを聞いて、世界一のウイスキーを目指そうということで、名誉顧問を引き受けました。なぜ直火かというと、私が感動したグレンファークラスの蒸留所が、まさに直火だったからです。普通はスチームで蒸留させるので、せいぜい100度。直火だと一気に1000度くらいに加熱して蒸留できる。その方が断然、香りと色がいいのです。発酵も普通のウイスキーはステンレスの器の中にウッドチップを入れて行う。木桶は高いし管理が大変だからです。でも、木桶を使えば、酵母菌や乳酸菌など複雑な発酵で独創的なうまみが出てくる。それをすばらしいバーラウンジで飲む。発売は2年後ですが、熟成3年目にして、信じられない味のウイスキーができています」(島地勝彦氏)
島地氏の要求のすべてに応えた笹川氏。「あいつこそ、ロマンチックな愚か者だ」と島地氏は言う。

















