佐高信氏「中小企業が生き延びる道は“大”にならないこと」

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 経済誌編集長を振り出しに、日本の「カイシャ」や経営者を長年取材してきた評論家・佐高信氏が見た生き残る中小企業とは、スガノミクスの正体とは。

 ◇  ◇  ◇

 まず言いたいことは、米国司法省が10月に反トラスト法(米国の独占禁止法)違反だとグーグルを提訴したことだ。そもそも独禁法はグーグルのように大きくなりすぎた会社を事業分割するためにある。米国では1970年代にAT&Tも分割するという話があった。企業が競争することで製品がよくなり、社会に活力をもたらす。だから独禁法というのは「資本主義の憲法」と呼ばれるわけだ。競争がなくなったら、もう一度スタートラインを引き直すというのが企業分割なんだよ。だけど日本政府がトヨタ自動車を分割すると言ったら、えっ?て話になるだろ。だから日本は、半分、資本主義じゃないんだよ。日本はNTTがNTTドコモを合併しちゃう。あれはふつう独禁法にひっかかる話だ。

 日本は自民党がおかしいんだ。独禁法の強化というと絶対反対するわけ。三木武夫総理は独禁法を改正しようとして足を引っ張られた。1970年に八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日鉄が誕生した時だって大問題になったんだ。公正取引委員会や近代経済学者まで反対したんだから。いま当たり前になっているけど、経営が苦しいから合併するなんて資本主義を殺していることなんだよ。

■日本はいびつな資本主義

 ドイツは公正取引委員会じゃなくて連邦カルテル庁っていうのがあるんだ。ドイツの経営者は、「カルテル庁はウザい。だけどあれがなければ困る」と言う。しかし日本の場合、日本学術会議もそうだけど「ウザい。だからなくす」なんだよな。

 菅(義偉総理)はまったくおかしい。日本経済は99%の中小企業で成り立っているのに、潰そうと言う。そこが菅や竹中平蔵たちの勘違い。携帯電話料金値下げとかさ。携帯キャリアーは民間企業。政府が口出しする話じゃない。そんなことなら電力料金を下げろと。でも電力会社に言えないんだよ。そこらへんがものすごくいびつな資本主義だよな。

 ソニー創業者の井深大は、かつて経団連(日本経済団体連合会)は談合を生む場所だから入らないと言った。日本商工会議所(日商)も本来、中小企業の集まりなんだけど機能していない。日商会頭が新日鉄のトップだった三村明夫。その前が東芝。中小企業の利益団体なのに新日鉄からトップを持ってきちゃだめだ。

 結論から言えば、中小企業が生き延びる道とは「大」にならないことだ。

 ユーハイムの河本武社長(当時)に話を聞いたことがあるんだ。河本さんはドイツ人のユーハイム夫妻から教えを受けてお菓子屋をやってきたんだ。そのエリーゼ・ユーハイムというおばあちゃんから河本さんはベストセラーを狙うな、ロングセラーを狙えと言われたんだ。ベストセラーは一時のもの。そして、ドイツのお菓子屋の原則として「3つのS」を教わった。スモール、スロー、ステディー。小さく、ゆっくり、着実にということ。企業規模が自然に大きくなるのはいいが、ブームはつくらない。無理をしない。その方針で今もユーハイムは生き残っているんだ。

地銀再編で貸しはがしの懸念…中小企業はバタバタ潰れる

 あと先日、移動スーパーとくし丸の創業者である住友達也と話をしたんだ。そうしたら住友は目が届かなくなることがダメだと言っていた。住友がとくし丸を辞めた理由は、自分の目が届かなくなり、やはり肌でノウハウを伝えられなくなったからだと言うんだ。

 とくし丸の最初の発想は住友のお母さんが買い物に不自由していたこと。地元のスーパーを潰したくないからと地元スーパーの商圏外でやった。地産地消でやってきたんだけど、企業規模が大きくなると地元のスーパーを大事にする気持ちも薄れてくる。橋下徹の失敗した大阪都構想ではないけど、合理化が人肌の感覚を失わせていく。それだと中小企業は生き残れないんだよ。

 企業が大きくなれば儲かると思っている人は多いけど、中小企業はたいてい大企業になろうとして失敗してんだよ。ダイエーにしろ大きくなって失敗した。あと、親から子どもに継がせるとき、実子に継がせようとして失敗する例も多い。大阪には船場資本主義ってあるんだけど、娘には経営能力のある番頭と結婚させるんだ。ボンボンはカネを与えて遊ばせる。たたき上げ経営者ほどこれが難しいけどな。

 石川県にある和倉温泉の加賀屋ってあるだろ。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で36年連続「日本一」だった旅館だ。あそこもある種の先見の明があった。昔の旅館っていうのは男が飲んで芸者を呼んで騒ぐ場所だった。男湯が大きくて女湯はあっても小さかった。それを加賀屋は女性風呂と男性風呂を同じ大きさにした。これからはそういう時代になるし、世界に半分いる女性を大事にしないと商売が成り立たないと考えたわけだ。今だと当たり前だけど、女同士で温泉旅館に行くなんて発想がない時代だったからな。

 ヤマト運輸は大企業になったけど、最初は小口の荷物を1つずつ運んで、採算がとれないと批判されていた。企業相手で大口貨物のほうが儲かるからだ。昔は国鉄にチッキっていうのがあって、切符を買うと切符に付随した荷物として運んでくれた。学生時代には駅まで布団とかを取りに行かなければいけなくてこれが大変だった。その官業をヤマトが食っていったわけだ。

 中小企業再編とか言っている菅政権で竹中平蔵が改革者気取りで出てきただろ。いかに菅の範囲が狭いか表しているな。菅は地銀を再編すると言っているけど、この局面では地銀が中小企業を支えているという側面があるわけだよ。地銀が貸しはがしをやれば、中小企業はバタバタ潰れていくわな。

 たとえばさ、本田技研創業者の本田宗一郎は最後はケンカしたけど、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)を大事にしていたんだ。ホンダが本当に困っているときに支店長決裁で助けたからだ。本来銀行は企業を育てる仕事。あのとき潰れていたら今のホンダはないわけだよ。

■企業には中小であれ「公器」の側面がある

 銀行が変質したのは小泉政権時代の郵政民営化が分かれ目だな。あれがすべてを帳簿上の赤字か黒字かの数字で分けるきっかけになってしまった。郵便局は赤字でもなかったのに“小泉単純一郎”が壊したわけだ。郵便局はとくし丸ではないけど、おばあちゃんたちのライフラインだったけど、あれで過疎が進んだ。

 田原総一朗もたまにはいいこと言ってさ、国鉄分割民営化のときに、北海道のある町長の話を引いて、警察が赤字だというのか、消防署が赤字だというのかと怒って書いていた。まっとうな意見だよ。つまり企業という存在を単なる「私器」と考えるか、「公器」と考えるか。企業には中小であれ、大であれ公器の側面があるんだよ。それをすべてそぎ落として赤字か黒字かで考えるのが竹中流だろ。それだと日本の企業は歪んでいくよ。

 自民出身でも亀井静香は違った。金融担当大臣をやっているときに「徳政令」をやった(※参照)。たたき上げの亀井はある種、弱者の視点を持っていた。自民党にいる頃、沖電気の門前で毎日抗議をしている田中哲朗って人が「朝日新聞」で記事になったのを見て、電話をかけて会うんだよ。永田町の裏の山の茶屋という料亭に呼んで、うな重もごちそうして。田中も驚いたらしい。亀井は議員会館の事務所にチェ・ゲバラ(キューバの革命運動家)の写真を飾っていたんだ。まあ総理にはなれないわな(笑う)。負けた総裁選では小泉にだまされたらしいけど。

 菅は沖縄に行っても米軍基地建設を反対していた名護市長に頑として会わなかっただろ。秘書っていうのは“疑似2世”。地盤受け継ぐってのは、親から受け継ぐか、仕えた代議士から受け継ぐかの違いだからな。たたき上げでもなんでもないよ。

※「平成の徳政令」中小企業金融円滑化法

 2009年、民主党連立政権の金融担当大臣だった亀井静香(写真)が実施した法律。08年のリーマン・ショックで中小企業が貸しはがしに苦しんでいた。そこで亀井は中小企業が返済猶予を申し込んだ際に、金融機関に応じるように努力義務を定めた。銀行は猛反発し「天下の悪法」と批判もされた。1年4カ月の時限立法として成立したが、2回延長され、13年3月まで続いた。令和の徳政令はあるのか。

▽さたか・まこと 評論家。1945年、山形県酒田市生まれ。「官房長官 菅義偉の陰謀」「池田大作と宮本顕治 『創共協定』誕生の舞台裏」など著書多数。最新刊は「竹中平蔵への退場勧告」(旬報社)。まぐまぐで有料メルマガ「佐高信の筆刀両断」を配信中。

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