元特捜部長レクサス暴走事故で“新証拠”(後編)解析画像を無視した東京高裁に「職務放棄」とあきれる
「検察のエース」と呼ばれた石川達紘・元東京地検特捜部長(83=現・弁護士)が、自家用車で暴走死亡事故を起こしたのは5年前。意外だっただけに、記憶にとどめている人も多いことだろうが、今その裁判が大変なことになっている。石川達紘弁護士は事故当初から「車が勝手に暴走した。アクセルを踏み続けてはいない」と無罪を主張。一審が有罪判決だったことを受け、石川弁護士側は控訴審で一審判決を覆す“新証拠”を提出。現場の不鮮明な防犯カメラの画像分析なのだが、それは車の発信時に「検察側がアクセルを踏み込んだとする(運転していた石川弁護士の)左足先が車外に出ている」という衝撃の鑑定だった。しかも鑑定した大学教授は、これまで警察・検察の依頼を受け、数々の事件解決の画像解析をしてきたその道の第一人者である。鑑定通りなら、車が勝手に暴走したことになる。“新証拠”を受けて裁判所はどうしたのか? 問題の画像を公開しながら、ジャーナリスト・村山治氏による緊急レポートの後編――。(編集部)
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山内は、検察側が「石川がアクセルを強く踏み込んだ」根拠のひとつとした「発進時に車が7センチノーズアップした」との主張についても、画像解析からは「2センチ前後しかアップしていない」と判断した。これも、「車が勝手にゆっくりと動き出した」とする石川側の主張に沿うものだった。
さらに、山内は、車が疾走中の石川の右足の状態についても、「車のドアは開きっぱなしで、右足の裏側を運転席ドアパネルの中央下部付近に押し付けられた状態であり、被告人が左足でアクセルペダルを踏むことは不可能だった」と判定した。これは、車の運転席ドアについた足跡と一致するものだ。
その根拠として山内は、発進時から衝突に近い時点までの5台の防犯カメラに写る事故車両のドアの開き角度を「傾角補正」処理して計測。28度、16度、16度、16度、14度で推移していることを確認した。
そのうえで、事故車と同型の車の運転席に石川を座らせ、ドアに右足を挟んだ状態でドアの開き角度を計測。それが13度で、防犯カメラがとらえたドアの開き角度と極めて近い値であることから、高速走行時にドアが開いていたのは、足が挟まっていたからだと結論づけた。
山内鑑定通りなら、事故車の発進時に、車の外に出ていた左足でアクセルペダルを踏むことは不可能であり、さらに疾走中も、右足を挟まれた状態で左足でアクセルを踏み続けることは物理的に極めて困難、ということになる。これは、「(事故車が)発進・加速した原因は、左足で誤ってアクセルペダルを踏み込んだこと」とした一審判決の認定は、間違いだったということになる。
さらに、パーキングブレーキがかかった状態の車が勝手に動き出したとなれば、事故車に何らかの不具合があったことを示唆することになる。