遠野醸造 太田睦代表取締役<1>ダメな京大生が絶頂のNECへ
「太田さん、会社辞めて元気になりましたね」
サラリーマン時代の元同僚たちから、今はこんなふうに言われるそうだ。
元同僚たちは皆、太田が造るビールを飲むために、岩手県遠野市まで足を運んでくれる。
クラフトビールを手掛ける「遠野醸造」は、2017年11月に設立。翌18年3月、醸造免許を取得してビールの生産を開始した。同5月には、醸造施設に併設するビアレストランをオープンさせ、「おかげさまで初年度から黒字です」と胸を張る。
JR釜石線の遠野駅前にある同社で、太田は代表取締役・醸造責任者を務める。川崎市麻生区の自宅には、たまにしか帰らない。新幹線は使わず、“愛車”のホンダVTR250にまたがり、東北道を爆走して行き来する。
もっとも、“民話の里”として知られる遠野市とは縁もゆかりもなかった。さらに、ビールとは関係のない数理工学が専門で、博士号も持つ。そんな元サラリーマンが、どうして“今”に至ったのか。そこには、激動を駆け抜けてきた男の“生きざま”がある。