神戸大大学院教授木村幹氏 日韓関係はICJ提訴で諮ればいい
戦後最悪の日韓関係は改善に向かうのか、さらに泥沼化するのか。安倍政権が発動した対韓輸出規制に反発した文在寅政権は報復措置としてGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄を通告したものの、土壇場で条件付き継続に舵を切った。すると今度はその経緯をめぐって小競り合い。韓国政治の専門家は日韓の展望をどう見ているのか。
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――GSOMIA継続の背景に「米国のプレッシャーがあるのは明確だ」と指摘されています。
文在寅政権がGSOMIA破棄に踏み込んだ目的は、米国を日韓問題に介入させ、関係を悪化させた日本の責任を問おうとの計算からでした。最悪でもケンカ両成敗に持っていけると考えていた。ところが、目算は外れ、米国は経済問題で安全保障を犠牲にするのはけしからんと怒り、韓国が叩かれるようになった。
――それで翻意を?
11月23日午前0時の失効期限直前、保守系の「朝鮮日報」(21日付)が特ダネを流しました。在韓米軍の駐留経費交渉に絡め、米国側が求める負担増を拒否した場合、1個旅団の撤収を検討しているとの内容で、情報源はワシントンの外交筋。朝鮮日報は国防総省と比較的近く、GSOMIA期限が迫る中で意図的なリークだと考えられた。米韓関係を悪化させるなら米軍は削減、嫌ならいい加減にしろとのメッセージです。韓国側が致命的ミスを犯して勝手にコケただけですので、日本側の首相が安倍さんでなくても同じ展開になったでしょう。「安倍外交の勝利」というより「文在寅外交の敗北」です。
――韓国側はGSOMIA継続とセットでWTO(世界貿易機関)への提訴手続きを中断。輸出管理をめぐる貿易当局の協議が再開されました。
日本側は3年間協議がなかったことを問題視して措置に踏み切った。それを韓国側が国際ルール違反だからWTOで白黒つけると言い出し、協議ができなかった。今回、韓国側が提訴をあきらめて議論すると言い出した以上、日本側は対話を拒めません。それを韓国側は日本が譲歩したと国内的に解釈し、説明しているのが実態です。
――安倍首相の「なにも譲っていない」などの発言が報道されて大統領府が反発し、日本側が謝罪したしないで大モメ、水掛け論になっています。
対話の停滞が予想されます。日本は韓国側が積極的に対応しない限り譲歩したくない、韓国は何もしなくても日本が譲歩したことにしたい。GSOMIA破棄を撤回した文在寅政権は顔を立ててほしかった。これで韓国の立場は硬化し、両国の不信感はさらに拡大するでしょう。忘れてはならないのは、日本側が本来求めていたのは元徴用工問題での善処だったということ。韓国側が誤って切ったGSOMIAカードで勝っても、元徴用工問題の解決には直接つながらない。韓国側がこの問題で何も提案していないのに、今月下旬の日中韓首脳会議で日韓首脳会談も調整されている。いつの間にか立場が変わっています。安倍首相は元徴用工問題で意味ある解決案が示されない限り、文在寅大統領とは会わないと言ってきたのに。
■ライバルが炎上する横でガッツポーズ
――大阪G20首脳会議でも会談を拒否しました。
日本側がいつの間にか旗を降ろした形になっている。ただ、再び感情的な局面に入ったのに、安倍首相は首脳会談に臨めるのでしょうか? 今の状況を「ル・マン」に例えれば、スタート直後にライバルが壁に衝突し、炎上している横で自分ひとりがガッツポーズを決めているようなもの。ゴールはまだ先だし、23時間以上たっぷり残っている。