ベリーベスト業務停止6カ月を招いた日弁連の怠慢

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 東京弁護士会は3月12日、弁護士法第56条に基づき、弁護士法人ベリーベスト法律事務所、代表社員である酒井将弁護士、浅野健太郎弁護士にそれぞれ業務停止6カ月の処分を言い渡した。(ベリーベスト弁護士法人、弁護士法人VERYBESTとは別の事務所)

 今回は、司法書士事務所から過払い金請求事件を引き継いでいたことが弁護士法違法と判断された。この案件は東京弁護士会が自ら懲戒請求したものであるし(東京都には東京、東京第一、東京第二の3つの弁護士会がある)、後述するが、事案の性質上、弁護士業界のメンツにも関わっている。詳しくは、関連記事も参照していただきたい。

 ベリーベスト法律事務所は、IT×広告×法律で急成長してきた法律事務所。処分を受けて同所はコメントを発表した。

「本件では、誰も被害者がいません」

「東京弁護士会が、あえてベリーベストを懲戒する意味は何でしょうか。業界で急成長していたベリーベストの勢いを挫くためなのか、あるいは、司法書士に弁護士の職域を奪われないようにするためなのか。そこには、依頼者にとって最善の方法は何かという視点は皆無です。本件は、東京弁護士会が自ら懲戒請求して、自ら懲戒処分した事案です。『はじめから結論ありき』の不公正・不公平な処分であり、何の正義もありません」

 このコメントはかなり本音に近いと思われる。また、6カ月の営業停止は多くの弁護士にとって廃業を意味する。抱えている事件は扱えず、顧問先との契約も解除となる。新型コロナ感染拡大による1カ月近い休業で大量倒産が取りざたされているが、期間だけでいえばそれを大幅に超える。憤懣やるかたないだろう。

■司法制度改革で司法書士が参入

 士業の規制緩和も進めた司法制度改革を受け、2002年には司法書士法が改正されて、司法書士は簡易裁判所で取り扱うことができる訴額140万円までの事件を代理業務できることになった。とはいえ、過払い金請求事件の場合、相談を受けた時点で金額は確定できないため、利息引き直し計算の結果、140万円を超える過払い金が発生した場合、司法書士は裁判書類に作成はできるものの、相談業務や調査業務について代理権限を失うことになる。

 しかし、超過事件を弁護士に有償で引き継ぐことは、非弁提携として弁護士法27条違反になる。だが、弁護士に無料で事件を引き渡すメリットも司法書士にはない。すると司法書士は事件の代理を断るか、依頼人による本人訴訟を支援することになる。この2つの選択肢は依頼人にとって、負担が大きい。このように今回の懲戒処分の根っこには、長年放置されてきたグレーゾーンをめぐる問題がある。

 この点についてベリーベストは、「非弁提携を理由とする懲戒請求に対する見解」をホームページで掲載している。

「この問題は、何もベリーベストと司法書士法人Aだけの問題ではなく、司法書士から弁護士への代理権超え案件の引継ぎに際し、弁護士がそれまでに司法書士が行った業務成果物を引き継いだり司法書士に一部の業務を委託したりする場合に、いかに適正な対価を合意して支払えばよいのかという一般的な問題です。この問題については、日本弁護士連合会(日弁連)と日本司法書士会連合会(日司連)との間で、司法書士から弁護士への代理権超え案件の引継ぎをどのように取り扱うべきかについて議論がなされており、未だに決着を見ていません。司法書士法により司法書士が訴額140万円以下の事件しか取り扱えないことになっている以上、現実問題として、訴額140万円を超える過払い金返還請求事件については弁護士への引継ぎが必要となります」

■グレーゾーン放置でいいのか

 日弁連と日司連は、いまだにガイドラインをつくらず放置しているが、現場では超過引き継ぎ案件は生じ続けている。そのため現場の士業は違法にならないよう、関係各方面の顔色をうかがいながら仕組みを検討してきている。

 ベリーベストの場合、2014年以降、過払い金返還訴訟の訴状等の裁判所類一式の作成を、司法書士法人新宿事務所に19万8000円で業務委託していた。案件紹介による対価は含まれないとしたのである。依頼人の立場からすれば、超過事件の裁判所類一式は司法書士法人からベリーベスト法律事務所に引き継がれるため、引き継ぎによって新たな負担も生じないと考えた。

 しかし今回、東京弁護士会は会として懲戒請求をして押し切った。一方、司法書士側の東京司法書士会綱紀調査委員会はベリーベスト法律事務所に事件を引き継いだ司法書士法人新宿事務所について、弁護士法72条違反の事実はないと認定している。東京弁護士会とは真逆の判断である。

 今後ベリーベストは、さらに日本弁護士連合会に審査請求を行なう予定だとする。日弁連も、旗を振って進めた司法制度改革の始末をつけるべきではないか。

(取材・文=平井康嗣/日刊ゲンダイ)

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