塩崎恭久氏「明治以来の平時の発想ではコロナに勝てない」

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塩崎恭久(衆議院議員・元厚労相)

 新型コロナウイルス感染症の第1波が昨春に襲来してから約1年。昨年11月から本格化した第3波は、全国の新規感染者数が依然として連日1000人を超え、下げ止まり傾向が顕著だ。海外由来の変異株の脅威が警戒される中、果たして第4波襲来を避けられるのか。日本が抱えるコロナ対策の課題を、元厚労相のこの人に聞いた。

*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。

 ◇  ◇  ◇

 ――第4波に備えるために必要な対策は何でしょう。

 自民党の行政改革プロジェクトチームの本部長を務めていた昨年6月、感染症流行時のガバナンス改革に関する提言を出しました。要点は、有事は国が司令塔となるということです。実は日本は「武力攻撃事態法」で、武力攻撃を受けた際に国民の生命・財産を守る責任は国にある、と明記しています。都道府県や個人の権利の制約を含め、有事の際は国が司令塔になる。知事に代わって国が責任を持つ「直接執行」を初めて入れました。この仕組みが感染症においても必要です。

 ――責任の所在がバラバラだから、国と自治体の足並みも揃わない。

 感染症対策は「旧伝染病予防法」が制定された明治30(1897)年以来、基本的に同じ体制が続いています。知事が責任者、保健所がその手足として、感染症の発生原因を調査・把握する仕組みです。食中毒やコレラといった局所的な対策で済んでしまうような感染症には知事が対応し、国は情報だけ取っていた。民主党政権で新型インフルエンザ特措法ができたけれども、国が有事に備えて国民の生命・財産を守るための法制度としては不十分でした。だから昨年6月の提言で「国が最終的に責任を持つ」ように変更を迫ったけれども、残念ながら、そうした構造的な改革はコロナ収束後ということに整理されてしまいました。

■特措法と感染症法の改正も「中途半端」

 ――今年2月に特措法と感染症法が改正、施行されました。

 中途半端な感が否めません。「直接執行」を入れていないし、コロナ患者の入院調整を国が責任を持つとも書いていない。「知事が総合調整できる」と書いてあるだけです。調整できなければ、「できませんでした」で終わってしまう仕組みなのです。現行のままでは中途半端なので、もう1度改正して、国が最後は責任を持つ法律に組み立て直すことが必要です。

 ――課題はコロナ対策における構造改革だと。

 日本は保健所を中心に国立感染症研究所をトップとする公衆衛生の流れと、地域医療の流れがあり、この1年間で分かったことは、現状、公衆衛生が上、地域医療が下になってしまっています。地域医療を担う、かかりつけ医がPCR検査を勧めても、以前は37度5分以上の発熱が4日続いていないと検査できなかった。医者でもない非常勤の保健所職員が病院で診てもらうかどうかを決めており、公衆衛生と地域医療が全然別物であるという平時の発想のままだったのです。そのせいで自宅療養中の患者が人知れず亡くなっていくケースが、昨年12月と今年1月に多発しました。保健所は一生懸命やっているとしても、患者にとってはたまったものじゃない。かかりつけ医にも診てもらえず、家にいてくださいと言われ、一歩も出られない状態が続き、急変して亡くなってしまうのですから。地域医療と公衆衛生、疫学研究と臨床研究を一体化して命を救うことを最優先にしていかないといけません。

 ――なぜ1年も「平時の発想」のままなのでしょう。

 前例踏襲主義ですよね。未知のウイルスは公衆衛生ムラが担うという明治以来の発想、すなわち、どういう敵であろうと、同じ体制で対処するという珍しい発想が続いています。変異株への対応にしても、感染研がゲノム解析を一手に担っている。厚労省は週500件の解析能力を800件に拡大したと言っていますが、例えば、米バイデン政権は2億ドルもの予算をゲノム解析力強化のためだけにCDC(米疾病対策センター)につけると言っている。解析能力は週2万5000件というから、日本とはえらい違いです。いかに厚労省が平時の発想のままか分かります。

「司令塔」は一体、誰なのか

 ――変異株による第4波も懸念されます。

 全国の新規感染者数はこのところ1000人前後でした。ゲノム解析の専門家の中には、全件検査を提唱している人もいるので、1日1000件を解析しようと思えばできる。しかし、感染研だけでは無理です。したがって、大学や民間と組んだ「官民ゲノム解析チーム」の創設が急務です。実は1日6000件、週3万件を解析できるベンチャー企業が国内にあるのです。米国の目標値よりも多く解析できる能力があるのに、厚労省・感染研はどうにも閉鎖的です。変異株にはワクチンが効かない可能性も指摘されているので、徹底的に解析をしなければなりません。日本独自の変異が起き、それに合わせたワクチンを作らないといけなくなる可能性も踏まえると、独自にワクチンを開発する能力を持っておくことは非常に大事です。

 ――新型コロナワクチンは海外製に頼り切りです。

「米ファイザー社がちゃんとワクチンを送ってきてくれるかな」みたいな“あなた頼み”では、国民の命を守る基本を外しているのではないか、と批判されても仕方がない。今回はやむを得ないにせよ、変異株に合わせて作り直す能力などをただちに準備しなければいけない。ただ、ワクチン一般について言えば、日本から輸出している製品はほぼゼロなのが現状です。国が最低限に合わせる「護送船団方式」で対応してきた結果、輸出できるほどの企業を育ててこなかった。その証拠に、途上国や子供のワクチン接種の拡大を目的とする「GAVIアライアンス」は、日本製を使っていません。資金だけでなく、国産ワクチンも提供できる方が望ましい。

■有事の「直接執行」が今こそ必要なのです。

 ――ワクチン供給も含め医療体制の整備などの懸念は払拭できるのでしょうか。

 大学病院やその他公的病院に重症のコロナ患者の受け入れを要請・指示する権限を法律上、明確に定めることしか問題解決に至りません。大学病院など大規模病院が重症患者を受け入れ、中等症患者は公的病院や力のある民間病院などが受け持ち、軽症者や無症状患者は民間病院と宿泊施設が中心となるべきです。その割り振りを行う法的根拠を作らねばならないのです。現状、実際の割り振りは保健所が担っているため、次の第4波で患者が急増したら、また保健所が逼迫してしまう。地域医療全体を見渡しているのは、各都道府県庁です。国から都道府県庁に保健所や医師会、病院協会等と組んで総合調整する権限を与え、どうしてもやらない場合は国が出るということを法律で明確にする。知事に国の言うことを聞かせるのではなく、知事に対する権限付与と、いざとなれば国が責任を持つ直接執行が重要なのです。

 ――国や自治体の責任を明確化するのですね。

 根本的な問題は、今の法体系では知事が総合調整の役割を果たせなかった場合、国が代わりに責任を持てないということです。総合調整する役割を与えると同時に、事業者や住民に命令を出せる権限を知事に与えることが必要ですし、知事が国の指示に従わない場合には、国が代わってやる。自治を侵すとの指摘もあるでしょうが、知事がやらない時に国が代わりにやるのは、自治を侵していません。自治にゆだねた結果、「嫌だ」という知事に代わるのが国だからです。

 ――厚労省は自治体や保健所に事務連絡通知を出し続けています。

 とうとう1000通を超えました。もらった方は何が何だか分かりません。ホテル療養の消毒の仕方ひとつ取っても、「好事例はこんなのがあります」「後は考えてください」と通知している。決して「こうしてください」じゃない。一体誰が司令塔なのか、と思います。欧米は感染者数が日本よりも格段に多いし、間違ったこともやるけれど、司令塔がハッキリしていますよね。日本はというと、太平洋戦争と同じです。みんなが自分の守備範囲を守った。しかし、結果は歴史に見るとおりです。「失敗の本質」ですね。

(聞き手=高月太樹/日刊ゲンダイ)

塩崎恭久(しおざき・やすひさ)1950年愛媛県松山市出身。75年東大卒業後、日本銀行に入行。82年米ハーバード大学行政学大学院修了(行政学修士)。93年旧愛媛1区から自民党公認で出馬し初当選。参院議員1期を経て、衆院当選8回。第1次安倍政権で官房長官、第2次安倍政権で厚労大臣(14年9月~17年8月)。20年9月から自民党政治制度改革実行本部長。

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