岡邦行
著者のコラム一覧
岡邦行ルポライター

1949年、福島県南相馬市生まれ。ルポライター。第3回報知ドキュメント大賞受賞。著書に「伊勢湾台風―水害前線の村」など。3・11後は出身地・南相馬中心に原発禍の実態を取材し続けている。近著に「南相馬少年野球団」「大島鎌吉の東京オリンピック」

父の他界で傷心…河西昌枝を救ったのは長嶋のサインだった

公開日: 更新日:

1964年東京五輪・女子バレー金メダル 河西昌枝さん(上)

 昨年のNHK大河ドラマいだてん~東京オリムピック噺~」。46話放送にこんな場面があった。

 1964年東京オリンピック開催3カ月前の7月だ。“東洋の魔女”といわれた女子バレーボール代表チームの主将、安藤サクラが演じる河西昌枝が、父が危篤のために山梨県に帰省する。だが、とんぼ返りで練習場に戻ってきた河西に対し、徳井義実が演じる監督大松博文は激怒する。

「帰れ。お父さんのそばにいろ!」

 ところが、河西は涙を流し訴えるのだ。「バレーボールを続けます!」と……。

 事実はまったく違うのだ。

 これに関して、元NHK大阪放送局スポーツ部ディレクターの毛利泰子が詳しい。当時の日紡貝塚の体育館に日参。東洋の魔女に密着し“毛ちゃん”と呼ばれるほどの間柄だった。

 56年前の7月16日。毛利はいつもと違う光景を体育館で目撃する。主将の河西が監督大松に涙目で「父が危篤です。帰らせてください!」と懇願していたのだが、大松は「ダメだ。練習を終えたら帰ればいい。練習だ!」と繰り返し叱咤した。河西は怒りを爆発させ、涙声で叫んだのだ。

「この、鬼ーっ!」

 それから3日後に河西の父は73歳で他界した。

 大阪で私の取材に快く応じてくれた今年89歳を迎える毛利は、当時を語った。

「河西さんは4人きょうだいの末っ子で長女でしたから、とくにお父さんから可愛がられていた。そのお父さんが亡くなったために落ち込んでしまった。それで大松監督が私に『河西がおかしい。どないしたらええ?』と相談してきた。『大の長嶋ファンやから巨人の試合を見せれば元気になると思います』と私が言ったら『毛ちゃん、頼むわ』と……」

 そこでプロ野球も担当していた毛利は早速、長嶋茂雄に電話した。2人の会話を再現する。
毛利「バレーの河西昌枝さん、ご存じですか?」
長嶋「よーく、知っていますよお」
毛利「実はお父さんを亡くして落ち込んでいます。プロアマの問題もあり、直接お会いすることはできませんが、サイン色紙とボールをいただきたいです。いいですか?」
長嶋「オッケーです!」

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    センバツ人気低迷の真犯人!「スタンドガラガラ」なのは低反発バット導入のせいじゃない

    センバツ人気低迷の真犯人!「スタンドガラガラ」なのは低反発バット導入のせいじゃない

  2. 2
    三田寛子ついに堪忍袋の緒が切れた中村芝翫“4度目不倫”に「故・中村勘三郎さん超え」の声も

    三田寛子ついに堪忍袋の緒が切れた中村芝翫“4度目不倫”に「故・中村勘三郎さん超え」の声も

  3. 3
    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

    若林志穂が語った昭和芸能界の暗部…大物ミュージシャン以外からの性被害も続々告白の衝撃

  4. 4
    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

    (6)「パンツを脱いできなさい」デビュー当時の志穂美悦子に指示したワケ

  5. 5
    夏の甲子園「朝夕2部制」導入の裏で…関係者が「京セラドーム併用」を絶対に避けたい理由

    夏の甲子園「朝夕2部制」導入の裏で…関係者が「京セラドーム併用」を絶対に避けたい理由

  1. 6
    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

    井上真央ようやくかなった松本潤への“結婚お断り”宣言 これまで否定できなかった苦しい胸中

  2. 7
    マイナ保険証“洗脳計画”GWに政府ゴリ押し 厚労相「利用率にかかわらず廃止」発言は大炎上

    マイナ保険証“洗脳計画”GWに政府ゴリ押し 厚労相「利用率にかかわらず廃止」発言は大炎上

  3. 8
    「大谷は食い物にされているのでは」…水原容疑者の暴走許したバレロ代理人は批判殺到で火だるまに

    「大谷は食い物にされているのでは」…水原容疑者の暴走許したバレロ代理人は批判殺到で火だるまに

  4. 9
    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

    福山雅治は自宅に帰らず…吹石一恵と「6月離婚説」の真偽

  5. 10
    大谷は口座を3年放置のだらしなさ…悲劇を招いた「野球さえ上手ければ尊敬される」風潮

    大谷は口座を3年放置のだらしなさ…悲劇を招いた「野球さえ上手ければ尊敬される」風潮