亀新フィーバーの92年 年俸大幅増の新庄にアドバイスすると「え、税金って何ですか?」

公開日: 更新日:

野田浩司(元阪神、オリックス投手)

 めちゃくちゃ肩の強いやつが一軍に上がってきたな――。

 野田氏が5年目の1992年5月のこと。主砲で正三塁手だったオマリーが故障離脱したことを受け、高卒3年目の新庄が急きょ昇格を果たした。

「三塁の守備練習を見ていると、一塁にビュンビュン投げていて、コントロールは悪かったけど、鉄砲肩は際立っていました。すると、昇格初打席で初球をいきなりプロ初本塁打。これが決勝打となってフィーバーが始まりました」

 新庄は7月から中堅に入り、右中間コンビを組むことになる亀山努が、ガッツあふれるヘッドスライディングで甲子園を沸かせていた。そこに新庄が加わり、「亀新フィーバー」が巻き起こった。

「新庄の台頭によって女性ファンが激増しましたね。新大阪駅から新幹線で移動する時なんて、ホームで、もみくちゃにされましたから。女性ファンがギリギリまで新庄に近づこうとして、新幹線の中に入った途端、ドアが閉まってしまったことがあった。新庄は広報部員に守られているから気付いていない。その子は京都駅で下車してUターンしたみたい。行く先々で新庄目当ての若い女性がボードを掲げていて、まるでコンサート会場のようでした」

 当時の選手寮「虎風荘」は甲子園球場の東隣にあった。寮生は徒歩で球場入りするが、新庄は歩いて数分の距離を寮長が車で送迎しなければならないほど、フィーバーは凄まじかった。

隣の甲子園へ寮長が車で送迎

 その年、阪神は優勝争いに加わり、2位に終わったものの、「虎のプリンス」は11本塁打をマーク。当然、取材も殺到した。野田氏は新庄に、こう助言したという。

「このオフは年俸もバーンと上がるだろうし、テレビ出演とかインタビューとか副収入もたくさんあるだろう。でも、来年の税金の分は考えておかないといかんぞ」

「え? 野田さん、税金って何ですか?」

「は? 所得税といって今年稼いだ分から、来年何%か納めるもんや! 国民の義務や。知らんのか?」

「稼いだ分は全部もらえるんじゃないんですか?」

「そんなわけないやろ!とにかく取っておかないとあかんぞ」

 野田氏は92年オフ、トレードでオリックスへの移籍が決まった。その頃、新庄の年俸は2200万円に大幅アップ。すぐに2000万円のベンツを購入したそうで、後に「(残りの)200万円で過ごせばいいと思った。税金を知らなかった」と出演したテレビ番組で大笑いしていたという。

「『人の話を聞いていなかったんかい!』とテレビに向かって突っ込んだのは言うまでもありません」(この項おわり)

*この記事の関連【動画】もご覧いただけます。


▽野田浩司(のだ・こうじ) 1968年2月9日生まれ。熊本県出身。多良木高から九州産交を経て87年ドラフト1位で阪神入り。92年に松永浩美とのトレードでオリックス入り。93年に17勝5敗で最多勝。95年に1試合19奪三振のプロ野球記録。2000年引退。通算成績は89勝87敗9セーブ。05年から08年までニチダイでコーチ。現在はJSPORTS野球解説者。NTT西日本で投手を指導中。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 野球のアクセスランキング

  1. 1

    大山悠輔が“巨人を蹴った”本当の理由…東京で新居探し説、阪神に抱くトラウマ、条件格差があっても残留のまさか

  2. 2

    ヤクルト村上宗隆と巨人岡本和真 メジャーはどちらを高く評価する? 識者、米スカウトが占う「リアルな数字」

  3. 3

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  4. 4

    巨人・岡本和真の意中は名門ヤンキース…来オフのメジャー挑戦へ「1年残留代」込みの年俸大幅増

  5. 5

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  1. 6

    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

  2. 7

    阪神・大山悠輔「5年20億円」超破格厚遇が招く不幸…これで活躍できなきゃ孤立無援の崖っぷち

  3. 8

    ポストシーズンの分配金が示す光と陰…一般職員の年収は約5万ドルで平均未満、“やりがい搾取”の一面も

  4. 9

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  5. 10

    《門田博光の巻》「打撃の求道者」は練習方法もケタ外れだった…僕が地獄を見た“10分”の要求

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志氏はパチプロ時代の正義感どこへ…兵庫県知事選を巡る公選法違反疑惑で“キワモノ”扱い

  2. 2

    タラレバ吉高の髪型人気で…“永野ヘア女子”急増の珍現象

  3. 3

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 4

    中山美穂さんの死を悼む声続々…ワインをこよなく愛し培われた“酒人脈” 隣席パーティーに“飛び入り参加”も

  5. 5

    《#兵庫県恥ずかしい》斎藤元彦知事を巡り地方議員らが出しゃばり…本人不在の"暴走"に県民うんざり

  1. 6

    シーズン中“2度目の現役ドラフト”実施に現実味…トライアウトは形骸化し今年限りで廃止案

  2. 7

    兵庫県・斎藤元彦知事を待つ12.25百条委…「パー券押し売り」疑惑と「情報漏洩」問題でいよいよ窮地に

  3. 8

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 9

    大量にスタッフ辞め…長渕剛「10万人富士山ライブ」の後始末

  5. 10

    立花孝志氏の立件あるか?兵庫県知事選での斎藤元彦氏応援は「公選法違反の恐れアリ」と総務相答弁