大谷翔平と鈴木誠也に火の粉が…米国の北京五輪「外交ボイコット」で懸念される中国の報復

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 来年2月開幕の北京冬季五輪を巡って米中関係が悪化している。

 米バイデン政権は日本時間7日、中国政府による新疆ウイグル自治区での集団虐殺など人権侵害に抗議し、北京五輪に外交使節団を派遣しないと発表。米政府の通知を受けた豪州が追随し、英国などの同盟国のボイコット表明も相次いでいる。

 米国による「外交ボイコット」に中国政府は「強烈な不満と断固とした反対」を表明。中国外務省の趙立堅副報道局長は「スポーツの政治化や北京五輪を妨害・破壊する言動をやめなければ、重要分野や国際・地域問題における(米中)両国の対話や協力を損ねることになる」と警告。「米側は代償を払う」とも話し、対抗措置に出ると断言した。

■制裁対象はナショナル・パスタイム

 趙氏は2028年米ロサンゼルス五輪の外交ボイコットを示唆しているが、国のメンツを潰された中国が報復を7年も先送りするのは現実的ではない。矛先が米国のナショナル・パスタイム(国民的娯楽)であるメジャーリーグに向けられる可能性は十分にある。

 野球文化学会会長で名城大准教授・鈴村裕輔氏は「中国式の民主主義を掲げる習近平政権が、米国に進出、投資する自国の企業に対し締め付けを強化することは考えられます」とこう続ける。

「中国系企業による米国の娯楽産業への投資を禁止するなどの措置が取られれば、大リーグも規制の対象になりかねません。大リーグが年俸総額の上限などで対立して新労使協定が合意せず、ロックアウトに突入したのは、コロナ禍で機構も含めたメジャー全体の収益が悪化したことと無関係ではありません。財政の厳しい大リーグの足元を見た中国政府がMLBに今回の外交ボイコットの報復を仕掛ければ、大リーグはNBA(米プロバスケット)の二の舞いになりかねません」

■NBAは440億円の損失

 米4大プロスポーツの一つであるNBAは、かつて中国の逆鱗に触れた。ヒューストン・ロケッツのダリル・モリーGM(当時)が、自身のSNSで香港の民主化デモを支持する内容を投稿し、中国政府の反発を招いた。

 NBAにとってバスケの人気が高い中国は、巨額の放映権料やスポンサー、グッズ収入が見込める大市場の一つ。NBAのアダム・シルバー・コミッショナーが訪中して関係維持に努めたが、中国側の怒りは収まらなかった。中国国内の中継が打ち切られ、ユニホームなどグッズの販売も停止、スポンサー企業の打ち切りなどが相次ぎ、19-20年シーズンの損失は約440億円にも達したという。NBAの年間収益は約8000億円といわれ、1シーズンで5.5%の減収を強いられたことになる。

 14億超の人口を抱える中国のスポーツ市場は巨大だ。将来性も十分にあり、今年5月、政府は国内のスポーツ市場規模を25年までに約85兆円にまで拡大する方針を発表。国家体育総局は同年までに個人のスポーツ消費を年間約50兆円に増やす目標を掲げた。

アジア市場開拓も頓挫

 この商機を逃すまいとするMLBは、今年3月、中国IT大手「テンセント」と18年から開始したネット中継を中国国内に加えてアジア諸国にも拡大することで合意。インドネシア、タイ、フィリピンなど13カ国で年間100試合以上がネット配信されている。MLBはテンセント社を通して中国はもとより、アジアのほぼ全域をマーケットとして取り込む狙いからだ。

「野球はバスケットボールほど中国国内の市場規模はありませんが、今回の外交ボイコットが引き金となり、大リーグが目指していた中国を中心としたアジアでの市場開拓が頓挫するかもしれません。長期的に見れば、MLBが大打撃を受ける可能性まである。中国からの利益が得られなければ、大リーグ各球団の収益も悪化して選手の人件費削減につながりかねません。そうなれば今オフ、ポスティングシステムによるメジャー移籍を目指す鈴木(誠也)や、FA権を取得する23年オフにも大型契約が見込まれる大谷(エンゼルス)にも影響が出ます」(前出の鈴村氏)

 メジャーリーガーにとって、米国による北京五輪の外交ボイコットは「対岸の火事」では済まないというのだ。

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