元川悦子
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元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

フットサル日本代表 木暮賢一郎監督「フットサル全体の価値を上げていくのが自分の仕事」

公開日: 更新日:

フットサル日本代表 レジェンド木暮賢一郎 かく語りき(下)

 元サッカー日本代表の松井大輔(YSCC横浜)のFリーグ参戦などもあり、注目度が高まりつつあるフットサル界。だが、11月に日本代表指揮官に就任した木暮賢一郎監督から見ると「道半ば」の印象が強いようだ。「フットサルの価値を上げていくことが自分の仕事。もっとお客さんに来てもらい、クラブ・選手個々の収入がアップするような好循環を作っていく必要がある」と意気込む。野心あふれる男のビジョンに迫った。

 ◇ ◇ ◇

 全国各地にコートができ、町クラブや学校の部活も増えてきたフットサル界。木暮監督が2004年W杯(チャイニーズ・タイペイ)に初参戦した頃に比べて競技人口も増え、右肩上がりにあるのは間違いない。

 しかしながら、Jリーグが1~3部で57クラブ・約1600人の選手を抱えるのに対し、Fリーグは1~2部で20クラブ・約340人の選手しかいない。運営規模も小さく、1部クラブでも年間予算は8000万円~1億円。松井が所属するYS横浜でも個人スポンサー制度を導入するなど、資金集めに工夫を凝らさなければならないのが実情だ。

「2007年のFリーグ発足から14年が経過し、練習環境が良くなり、小さい頃にフットサルを始めて『プロ選手になりたい』と夢を描きつつ、育ってきた選手も増えました。シューズの提供を受けたり、アウェーの遠征に自腹を切らなくて行けるなど、僕らが若かった時代には考えられないくらい恵まれた状況になった。それが歴史を積み重ねた証だとしみじみ感じます。でも、これで満足していいわけじゃない。多くの子供たちに夢や希望を与えられるような競技にならないといけないんです」と木暮監督は語気を強める。

代表の「勝つことの重要性」を痛感

 千葉・幕張の代表活動拠点1つ取っても、サッカー日本代表森保一監督には専用の仕事部屋があるのに、木暮監督にはない。

「森保さんにはいつも気にかけてもらってますし、あれだけ素晴らしい環境で仕事をさせてもらえるだけで本当に幸せ」と彼は謙遜するものの、その格差がフットサルの置かれた現実なのだ。

 地位向上のためには、2011年サッカー女子W杯

(ドイツ)で頂点に立った、なでしこジャパンのように明確な結果を出すことが一番の近道。今夏の東京五輪で銀メダルを獲得した女子バスケットボールにしても同様だ。自身が代表選手だった頃から「勝つことの重要性」を痛感してきた彼は、代表監督になった今も変わらず、質の高いプレーと結果を貪欲に追い求める覚悟だという。

「見る人が心を震わせるような熱い戦いをフットサル日本代表は常に見せる必要があると僕は考えます。それを姿勢や表情から伝えられるように選手には働きかけていくつもりです。実際、親交のある日本代表の川島永嗣(ストラスブール)選手らを見ていても、立ち振る舞い含めて人間的に素晴らしい。カズ(三浦知良=横浜FC)さんにしてもそう。今はポテンシャルの高い若手も数多く台頭している。彼らの能力を最大限引き出すことを意識して、(12月)13日からスタートする最初の代表合宿から取り組んでいきます」と指揮官は語る。

多彩な引き出しから強化を図る

 今年のフットサルW杯(リトアニア)では守備面はスペイン、ブラジルといった強豪国に十分通用したが、ゴールをこじ開ける部分に課題が出た。

 それは森保監督率いるサッカー代表と同じ。よりサイズの小さいゴールにシュートを決め切るというハードルをどうクリアするのか。木暮監督は他競技からもヒントを得つ解決策を探る構えだ。

「サッカーのみならず、バスケやハンドボールアメリカンフットボールなどを見て、フットサルに転用できることはないかと常日頃から研究を重ねています。点を取ろうと思うなら、前に走るのが普通ですけど、相手を引き出したり、スペースを作るために後ろに走る動きもあっていい。数的優位を作る工夫はいくつも考えられます。自分が現役時代に『飛び抜けた個』が数多くいるスペインでプレーした経験から与えられるアイディアもあります。フィジカル面も含めて、世界のトップに足りない部分があるのなら、同じ土俵に上がる努力をとことんまでやらないとダメ。そこが大事だと僕は思います」と世界を知る男は、多彩な引き出しから強化を図っていく。

 それが奏功し、3年後の2024年フットサルW杯で8強の壁を越えられれば、明るい未来が開けてくるはず。かつて代表エースだったレジェンド指揮官が「名選手は名監督になる」という新たなジンクスを作ってくれることを切に祈りたい。(おわり)

(取材・文=元川悦子/サッカージャーナリスト)

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