著者のコラム一覧
元川悦子サッカージャーナリスト

1967年7月14日生まれ。長野県松本市出身。業界紙、夕刊紙を経て94年にフリーランス。著作に「U―22」「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年 (SJ sports)」「「いじらない」育て方~親とコーチが語る遠藤保仁」「僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」など。

2012年フットサルW杯で憧れのカズさんと夢のような時間を過ごした

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フットサル代表監督 レジェンド木暮賢一郎 かく語りき(上)

フットサルというまだメジャーとは言えないスポーツの価値を上げるために全力を尽くしたい」

 11月22日、新たにフットサル日本代表監督に就任した木暮賢一郎監督は力強く宣言した。2000~2012年にかけて同代表のエースとして活躍し、W杯3大会に出場したレジェンドの指揮官就任に期待が高まっている。13~15日に最初の代表合宿を実施し、目標である2024年W杯ベスト8入りに向けた一歩を踏み出す彼の人間像に今、改めて迫った。

 ◇  ◇  ◇

 木暮監督は1979年11月、神奈川県生まれ。小学校3年から読売クラブ(現東京V)に入った。同期に南雄太(大宮)、先輩にINAC神戸の星川敬監督らがいるハイレベルな環境で切磋琢磨し、小6だった1991年には第1回全日本フットサル大会(現JFAバーモントカップ)で優勝。そこで中学時代まで過ごした。

「ちょうどJリーグ発足当初でカズ(三浦知良=横浜FC)さんやラモス(瑠偉=元ビーチサッカー日本代表監督)さんらが華々しい活躍をしていた頃。人気絶頂でホントに憧れましたし、自分もプロになりたいと本気で考えていました」としみじみ言う。

 だが、体が小さかったこともあってユースに昇格できず、湘南工科大学付属高へ進学。高校選手権出場を目指したが、それも叶わず、部活を引退して遊びでやっていたフットサルにハマるようになる。

 本気で取り組み始めたのは中央大時代。3年だった2001年のAFCフットサル選手権に出場したのを機にプロのフットサル選手を目指した。

中大卒業後に日体大の大学院に

「90年代から2000年代にかけてのフットサルはまだ一般に認知されておらず、体育館でボールを蹴るのは禁止。限られた民間施設でプレーするのが精一杯だった。もちろんプロもなかった。それでもいろんな背景のチームや選手が集まり、コミュニティーもできて、楽しくなりました。サッカーで感じていた中途半端な感覚から解放され、自由になれた気がして、その魅力に取りつかれましたね」(木暮)

 そこからフットサルを徹底的に追求するようになる。川崎にあるブラジル関連スーパーに足を延ばし、VHSのビデオを買って擦り切れるほど見たり、お金を貯めてブラジルに武者修行に行くなど、貪欲に行動を起こした。中央大卒業後には日本体育大の大学院に進学。スポーツ科学も学んだ。

 そして2005年には本場・スペインに渡り、2部のナサレノでプレー。さらに2つのクラブを渡り歩き、高度なスキルを体得する。「フットサルはサッカーでプロになれなかった人間がやる競技」といったネガティブなレッテルを剥がそうと、木暮監督は反骨心を前面に押し出し続けたのだ。

 彼の世界的な活躍に背中を押されるように、日本でも2007年には初の全国リーグであるFリーグが発足。自身も2008年11月に帰国に踏み切り、名古屋オーシャンズに加入。大黒柱として獅子奮迅の働きを見せた。

 フットサル界の先駆者として自ら道を切り開く彼の生きざまは、ブラジルへ渡ってJリーグ発足の火付け役となったカズと重なる。

あり得ない奇跡が起きた

 奇しくも2012年(タイ)フットサルW杯にそのカズが参戦。木暮監督は憧れの人とともに日の丸をつけ、世界舞台で戦うチャンスを得た。

「絶対にあり得ないことだと思っていた奇跡が起きたんです。ホントに宝物のような時間を過ごせた。それもフットサルを諦めずに続けたから、だと思います。サッカー界のパイオニアであるカズさんとは、感覚的に似てる部分も感じました。今回の代表監督就任決定の際には『おめでとう』とメッセージをいただいた。俄然、意欲が高まりました」と木暮監督は少年のように目を輝かせた。

 2013年の現役引退後、指導者に転身。FリーグU23選抜やシュライカー大阪、フットサル日本女子代表などを率いてきた。各地にフットサルコートができ、千葉・幕張の日本代表強化の拠点「夢フィールド」も使えるようになるなど、木暮監督が本格的に競技に向き合い始めた頃に比べて環境面は格段によくなっている。

 それでも日本はW杯16強が精一杯。直近の2021年W杯(リトアニア)でも世界ランク1位のスペイン、同2位のブラジル相手に善戦しながらも、8強の壁は越えられなかった。そこを3年後の大舞台でクリアするのが、彼に託された大命題だ。

「日本代表の結果はフットサル人気を上げていくために必要不可欠。代表チームが憧れの存在になるように強化を進めていきます」と語気を強めるレジェンド監督のチャレンジはここからが本番だ。(つづく)

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