ドラフト外入団の憂き目に半ば不貞腐れていたボクを最初に見出してくれたのは山本浩二さんだった
「チェッ、ドラフト外の無名新人なんてこの程度の扱いかよ」
想像していたキャンプとはおよそかけ離れた練習に、なかばふてくされていたある日のこと。山本浩二さんがフラッと鳥カゴの前にやってきます。
「どこへ行くんだろう」
そのまま通り過ぎるのかと思っていると、腕組みしたままケージの後ろから動きません。ドキドキしながら10分間ぐらいも打ったでしょうか。突然、浩二さんが口を開きます。
「おまえ、ええスイングしとるわ」
それだけ言うと、背を向けて去っていきました。
翌日、いつものように鳥カゴへ向かおうとすると、二軍監督の備前さんが「今日はメーンで打て」と言う。
「ボクのバッティングを見た浩二さんが報告してくれたんだな。これはビビっとれんぞ。ええとこ見せな」
意気揚々と打席に入ると、バッティングピッチャーが回転のいい直球をストライクゾーンにポンポン放ってくれます。そのボールは前日までのピッチングマシンとは違ってとても打ちやすく、鋭い打球が野手の間を抜けていきます。リストがうまく返ってヘッドが走ると、広い天福球場(両翼99メートル、中堅122メートル)のフェンスさえ越えていきます。大飛球を見た首脳陣は顔を見合わせヒソヒソやっています。