「あしたのジョー、の時代」 練馬区立美術館編

公開日: 更新日:

「あしたのジョー」(原作高森朝雄=梶原一騎の別名義、作画ちばてつや)は、40年以上も前に「週刊少年マガジン」に連載されたボクシング漫画。同作品をきっかけにそれまで子供のものだった漫画が大人にも読まれるようになり、よど号ハイジャック犯が声明文で自分たちを「明日のジョー」と名乗ったり、登場人物の力石徹の告別式が行われ、多くの参列者を集めるなど、社会に大きな影響を与えた。

 なぜ「あしたのジョー」がこれほどまでに当時の人々を魅了したのか。本書は、連載が始まった1967年から完結する73年までの日本社会を振り返りながら、作品を文化史的に位置づけたアートブック。

 何よりもまず目を奪われるのは、随所で紹介される原画150点だろう。第1話の扉絵から、力石戦でのクロスカウンターやラストシーンを暗示する前半のヒロイン・紀子とのデートシーン、そして世界チャンピオン、ホセ・メンドーサとの死闘など、名場面の原画を見ていると、夢中になって読んだあのころの気持ちがよみがえってくる。

 そしてジョーと同じ年にデビューし、「山谷」「ボクシング」とキーワードが重なる岡林信康など同時代に聞かれた音楽をはじめ、立てこもった学生たちがマガジンを持ち込んだという東大安田講堂事件(1969年)、あしたのジョーの熱烈なファンだったという三島由紀夫の割腹自殺(1970年11月)などを題材にした洋画家古沢岩美の作品、写真家・渡辺克巳が撮影した当時の新宿の人々、そして力石徹の告別式の総指揮をつとめ、アニメの主題歌も作詞した寺山修司と彼が率いた演劇実験室天井桟敷や、美術家たちの裸体によるパフォーマンスの数々まで。さまざまな視点から当時の反体制的文化の熱を伝える。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    さすがチンピラ政党…維新「国保逃れ」脱法スキームが大炎上! 入手した“指南書”に書かれていること

  2. 2

    国民民主党の支持率ダダ下がりが止まらない…ついに野党第4党に転落、共産党にも抜かれそうな気配

  3. 3

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  4. 4

    来秋ドラ1候補の高校BIG3は「全員直メジャー」の可能性…日本プロ野球経由は“遠回り”の認識広がる

  5. 5

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  3. 8

    脆弱株価、利上げ報道で急落…これが高市経済無策への市場の反応だ

  4. 9

    「東京電力HD」はいまこそ仕掛けのタイミング 無配でも成長力が期待できる

  5. 10

    日本人選手で初めてサングラスとリストバンドを着用した、陰のファッションリーダー