家族の崩壊と愛情が描かれている極上ミステリー

公開日: 更新日:

「声」アーナルデュル・インドリダソン、柳沢由実子訳

 アイスランドは、国土のほとんどが氷河で覆われている人口32万人の小国だ。小国であるにもかかわらず、豊かな経済と高い文化を誇っている。アーナルデュル・インドリダソンは、アイスランドが生んだ国際的に著名なミステリー作家だ。

 舞台はクリスマス時期のレイキャビク(アイスランドの首都)だ。シティーホテルの地下室で、ドアマンのグドロイグルが殺された。地味で誰も関心を払わない男だが、子ども好きで、毎年クリスマスにはサンタクロースに扮していた。殺されたときもサンタクロース姿だった。

 殺人担当の刑事エーレンデュルは、グドロイグルの過去を徹底的に調べる。そこで明らかになったのは、この男がかつて著名なボーイソプラノ歌手でレコードを2枚出した。しかし、声変わりによりチャンスを逸し、その後は転落の人生を歩んでいったという事実だった。父親の息子にかける過剰な期待、それに対する息子の反発と暴力、家庭崩壊、姉と弟の絆など人間のドラマをインドリダソンは見事な筆致で描いていく。同時にそれが、家庭が崩壊し娘が麻薬依存になっているエーレンデュルの状況と重なる。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  4. 4

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???

  5. 5

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  1. 6

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  2. 7

    JLPGA専務理事内定が人知れず“降格”に急転!背景に“不適切発言”疑惑と見え隠れする隠蔽体質

  3. 8

    「俳優座」の精神を反故にした無茶苦茶な日本の文化行政

  4. 9

    (72)寅さんをやり込めた、とっておきの「博さん語録」

  5. 10

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動