著者のコラム一覧
三島邦弘

ミシマ社代表。1975年、京都生まれ。2006年10月単身、ミシマ社設立。「原点回帰」を掲げ、一冊入魂の出版活動を京都と自由が丘の2拠点で展開。昨年10月に初の市販雑誌「ちゃぶ台」を刊行。現在の住まいは京都。

「世界がひっくり返って面白がる雑誌を作るぞ!」

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「へろへろ」鹿子裕文著

 雑誌「ヨレヨレ」をご存じだろうか? 2013年12月に創刊したこの雑誌は、ほどなく私たち出版人をとりこにした。「な、なんなんだ。むちゃ面白いじゃないか!」。調べると、発行元は出版社ではない。たんなる(とあえて言うが)老人介護施設の機関誌だ。そして、これを編集しているのが本書の著者・鹿子であった。

 ところでどうして、たんなる(と繰り返すが)老人介護施設から面白い雑誌が生まれたのか? むろん、そこが「たんなる」老人介護施設ではないからである。その名は「宅老所よりあい」。この「よりあい」の理念は、「ぼけても普通に暮らしたい」という、普通の人たちが普通に願うことを実現すること。

 ただし、いつの世であれ、普通を実現するのに、「普通」でいることはむずかしい。たとえば、設立者のひとり下村恵美子は、施設改築に800万円かかると言われたとき、「ケ・セラ・セラ~ なるようになるわ~」と、女3人でバザーを開いたり、寄付を募ったりするうちに、半年で集めてしまう。谷川俊太郎さんからは、「よりあいよりあい」という詩の直筆原稿までもらってしまう。もうひとりの立役者である村瀬孝生は、老人ホームを住宅地に建てる際、計9回も住民向けに説明会を開き、情理を尽くす。こうして2人は、「普通」ではできないことを次々に形にしていく。

 そのひとつが、「ヨレヨレ」にほかならない。2人は突然、鹿子に「あなたが作る『よりあい』の雑誌を読んでみたい」と依頼。それに対して、「世界がひっくり返っておもしろがる雑誌を作る」と返答する。ちなみに鹿子はその頃、10年もの間、編集の仕事から干されていた……。

「よりあい」がそうであるように、鹿子もまた、企画・取材・撮影・執筆・発送などすべてをひとりでやってしまう(これぞ編集!)。ひとりの人間が「おもしろい」と信じきって、やりきる仕事が伝わらないわけがない。そういう、ちょっと先の明るい普通の未来がここにある。(ナナロク社 1500円+税)



【連載】京都発 ミシマの「本よみ手帖」

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