作家が照らし出す 迷宮入りした凶悪事件の謎

公開日: 更新日:

「〈オウム真理教〉を検証する」井上順孝著

 迷宮入りした凶悪事件、決着後も割り切れなさを残す怪事件などが日本の病理を照らし出す――。

 あの地下鉄サリン事件からもう20年以上。しかし、事件の背景をなす日本社会の心の闇は依然として手つかずだ。化学兵器テロとしての教訓も生かされてない。本書は宗教学者や社会学者を中心にジャーナリストや事件当時はまだ子どもだった世代の大学院生までを含んだ専門論集。

 本書が特に想定する読者層は「オウム真理教事件にあまりリアリティーをもてない世代」=若者だという。オウムを異様な事件として葬らず、社会の病理の表れとして教訓を継承する試みというわけだ。

 オウムをチベット仏教やニューエイジなどに安易に結びつけると、逆に「ずいぶんと“立派”に見えてしまうという錯覚」が起こるという警告は鋭い。注目すべきは「自分たち以外のソト(の社会)に対する驚くべき差別意識と、それにもとづくすさまじい攻撃性」。悩みを逆転させて生まれた歪んだエリート意識が、他者を容易に軽んじる感覚を生み出すのだ。まさにイジメや排外主義の横行に通じる現代の社会病理。

 脱会者の手記から「ウチ」と「ソト」をめぐる狂信のしくみを明らかにし、文化人の中沢新一や宗教学者・山折哲雄らが事件前に麻原彰晃を持ち上げ、事件後にはうやむやに論点をずらしてしまった経緯を検証する章も読みごたえがある。(春秋社 2300円+税)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  2. 2

    渋野日向子に「ジャンボ尾崎に弟子入り」のススメ…国内3試合目は50人中ブービー終戦

  3. 3

    ソフトバンクは「一番得をした」…佐々木麟太郎の“損失見込み”を上回る好選定

  4. 4

    沢口靖子「絶対零度」が月9ワースト目前の“戦犯”はフジテレビ? 二匹目のドジョウ狙うも大誤算

  5. 5

    巨人・桑田二軍監督の電撃退団は“事実上のクビ”…真相は「優勝したのに国際部への異動を打診されていた」

  1. 6

    阪神「次の二軍監督」候補に挙がる2人の大物OB…人選の大前提は“藤川野球”にマッチすること

  2. 7

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  3. 8

    恥辱まみれの高市外交… 「ノーベル平和賞推薦」でのトランプ媚びはアベ手法そのもの

  4. 9

    後藤真希と一緒の“8万円沖縄ツアー”に《安売りしすぎ》と心配の声…"透け写真集"バカ売れ中なのに

  5. 10

    沢口靖子も菅田将暉も大コケ不可避?フジテレビ秋ドラマ総崩れで局内戦々恐々…シニア狙いが外れた根深い事情