「日本おとぼけ絵画史」金子信久著

公開日: 更新日:

「へそまがりな感性」が生み出した魅力作

 正統的、伝統的な日本美術の本流からは、ちょっとずれてはいるが、なぜだか見る者の心を奪って離さない、そんな絵画の数々を紹介する異色アートガイドブック。

 人は、世の中の価値観とはずれた意外なものに魅力を感じたり、心引かれたりすることがある。その「へそまがりな感性」が実は魅力的な美術を生み出すのに欠かせない原動力になってきたと著者は言う。本当にこれでいいのかと考え込んでしまうような絵でも、一方に手の込んだ立派な絵があるからこそ、それを否定し飛び越えることの痛快さを、見る者の心に与えてくれるからだ。

 日本の美術史に点在するそんな「へそまがりな感性」によって生み出されてきた作品の数々を鑑賞していく。

 まずは見る人を別世界へといざなう禅画を取り上げる。禅問答のように禅の境地を表す言葉は、一般の人間にはちんぷんかんぷんだが、そんな言葉や理屈を超えて一瞬で禅の何たるかを感じさせるために禅画は描かれてきた。

 とはいっても、やはりそこは禅の世界。禅僧の春叢紹珠による「皿回し布袋図」は、布袋さまが不安定な袋に乗って皿回しをしている姿を描いているのだが、「皿の中の水をこぼさなければ、いつもこの身は豆蔵(曲芸師の通称)じゃ」という意の賛を読んでもその真意はさっぱり分からない。でも、なぜだか、目が離せない。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    農水省「おこめ券」説明会のトンデモ全容 所管外の問い合わせに官僚疲弊、鈴木農相は逃げの一手

  4. 4

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  5. 5

    timelesz篠塚大輝“炎上”より深刻な佐藤勝利の豹変…《ケンティとマリウス戻ってきて》とファン懇願

  1. 6

    早瀬ノエルに鎮西寿々歌が相次ぎダウン…FRUITS ZIPPERも迎えてしまった超多忙アイドルの“通過儀礼”

  2. 7

    国民民主党“激ヤバ”女性議員ついに書類送検! 野党支持率でトップ返り咲きも玉木代表は苦悶

  3. 8

    池松壮亮&河合優実「業界一多忙カップル」ついにゴールインへ…交際発覚から2年半で“唯一の不安”も払拭か

  4. 9

    波瑠のゴールインだけじゃない? 年末年始スクープもしくは結婚発表が予想される大注目ビッグカップル7組総ざらい!

  5. 10

    アヤックス冨安健洋はJISSでのリハビリが奏功 「ガラスの下半身」返上し目指すはW杯優勝