著者のコラム一覧
石原壮一郎

1963年、三重県生まれ。著書「大人養成講座」「大人力検定」などで、日本の大人シーンを牽引している。最新刊「大人の言葉の選び方」も好評!

誰もが抱える「死」という人生の〆切

公開日: 更新日:

「 〆切本」左右社編集部編左右社(2300円+税)

 タイトルを見た瞬間に背筋が凍りつき、ページをめくるごとに全身から脂汗が噴き出してきました。「〆切」。ああ、なんて恐ろしく、そしてありがたい言葉でしょう。

 夏目漱石、川端康成、吉行淳之介、星新一、村上春樹、長谷川町子、岡崎京子……。この本には、明治から現在にいたる90人の名だたる書き手が、それぞれの「〆切との格闘」を描いたエッセーや手紙、マンガなどが収められています。

 〆切は、作家や漫画家にとって、もっとも身近で切実な問題。どれもリアリティーと真剣味と躍動感にあふれた名文(名作)ばかりです。島崎藤村は、パリから編集部に宛てたはがきに「甚だ面目なき思いを致して居ります。又自身もどかしく思って居ります。種々なる事情を御察し下されお許しを願ふの外ありません」と書きました。これぞ平身低頭。私たちもいつか使ってみましょう。いやまあ、使うような事態にならないほうがいいんですけど。

 そう、〆切に怯えながら生きているのは、物書きだけではありません。学生には宿題や入試という〆切があり、どんな仕事にも納期や決算といった〆切があります。卒業や定年も、〆切の一種といえるでしょう。

 作家たちが〆切に苦しみ、なんだかんだと言い訳をする話だけではないところが、この本の面白さであり〆切の奥深さ。取り立てる側の編集者がつづった本音や、〆切を必ず守ることをモットーとしている作家の主張もあわせて読むことで、〆切が持つ多彩な表情を感じることができます。

 実は誰もが抱えているのが「死」という人生の〆切。いつ来るかわからない上に、決して延長はできないのが、この〆切の厄介なところ。本書には、「〆切」を通じて、人生をどう過ごすかを考えさせてくれる効能もあります。いろんな〆切に勇気やエネルギーをもらいつつ、頑張って生きていきましょう。

【連載】イカした中年を養成する大人の必読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • BOOKSのアクセスランキング

  1. 1

    日本の課題がわかる「リチウム戦争」アーネスト・シェイダー著/ニューズピックス(選者:佐藤優)

  2. 2

    天皇と戦争の世紀(1)岸信介外相の入閣に異を唱えた昭和天皇

  3. 3

    天皇と戦争の世紀(2)軍部の「大権干犯に当たらず」の説明に苛立ち

  4. 4

    皿書店(豪徳寺)「開高健も書いているし、食の本の店にしよう。そんな感じで」1年前にオープン

  5. 5

    「埋もれてきたもうひとつの抑留の真実と、日本政府の冷淡を知ってもらいたい」──「モンゴル抑留 見捨てられた死者たち」井手裕彦氏

  1. 6

    天皇と戦争の世紀(3)無条件降伏の後、日本側が天皇制をどう死守したのか

  2. 7

    「いのち、見つめて」夏川草介、渡辺淳一ほか著|看取りの真意を問いかける傑作医療小説集

  3. 8

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(2)「能面検事の挫折」中山七里著

  4. 9

    よみがえった写真が伝える戦前戦時下の“時代の空気”「AIとカラーでよみがえる戦争の昭和史」別冊宝島編集部編

  5. 10

    まだまだ暑い!酷暑を意識から追い出すミステリー本特集(3)「『石球城』殺人事件」北山猛邦著

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    北島三郎(3)「北島ファミリー」の長女・原田悠里が語る御大

  2. 2

    「マクドは健康保険と年金に加入できてよかった」 シニアが働き続けるために必要なこととは?

  3. 3

    徳川光圀(1)水戸黄門は全国漫遊などしていない 主に出かけたのは江戸と領地の往復

  4. 4

    東京・蒲田の2駅結ぶ蒲蒲線、大田区と地元を取材して分かった実現のハードルと地元の思い

  5. 5

    東京・大井町、OIMACHI TRACKSと対照的な東小路飲食店街、商店街理事長が直面する2つの問題

  1. 6

    NHK夏の音楽特番「うたであえたら」は北川景子のMCが見事 カオスと化した近年の紅白はお手本に

  2. 7

    「山口組」抗争指定解除へ、それでも対立は続く…6代目幹部「喜ぶのは早い」

  3. 8

    バナナマン日村が簡単に復帰できそうにない「もう1つの理由」…レギュラー11本抱える人気者のジレンマ

  4. 9

    止まらない高市首相SNS発信に官邸総動員の実態…この週末は3日間で11連投も「ゴキブリ」投稿で大炎上

  5. 10

    清水アキラさんが三男急死の直前に語っていた“せがれ”のこと 良太郎さんに口説かれものまねショー復帰