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ここで一句…俳句本特集

「超辛口先生の 赤ペン俳句教室」夏井いつき著

 テレビのバラエティー番組が火付け役となり、ちょっとした俳句ブームが起きている。5・7・5の3句17音という日本人に親しまれた短いリズムで、その時々の情景や心情を表す。会心の一句が詠めたときの心地よさは格別だ。今回は、俳句の魅力や基本が分かる5冊を紹介。読後には一句詠みたくなること請け合いだ。

 近年の俳句ブームの火付け役でもあり、芸能人の俳句を一刀両断するバラエティー番組で人気の著者が、俳句の極意を伝授。芸能人の句を例題に挙げ、言葉の選び方ひとつで劇的に変化する俳句の面白さを紹介していく。

 まず、隅田川の花火大会の風景を思い浮かべて欲しい。その風景を伝えるうえで残念なのは次の句のどちらだろう。
A「移り行く夏の夜空か万華鏡」(前田吟)
B「酔ふほどに花火の川は万華鏡」(山村紅葉)

 正解は、A。花火を万華鏡にたとえたかったようだが、「移り行く」は「夏」にかかるため、花火の表現にならない。著者は、「ひらきゆく夏の夜空の万華鏡」と手直しする。これにより夏が移り行くのではなくなり、さらに「夜空か」を「夜空の」に変えることで「夏の夜空=花火=万華鏡」と意味が伝わるようになる。

 本書の要点を頭に入れておくだけで、何となく俳句が詠めそうな気分になってくる。

(朝日出版社 1300円+税)

「猫俳句パラダイス」倉阪鬼一郎著

 猫について詠まれた俳句ばかりを集めた本書。147の表題句のみならず、数百にも及ぶ引用句もすべてが猫づくしで、俳人であり作家でもある著者の解説付きだ。

「子猫ねむしつかみ上げられても眠る」

 何をされてもクゥクゥと寝たままの可愛い子猫の姿が思い浮かぶ。この句を詠んだのは、女性のエロスを主題とした多くの句を詠み、昭和初期の新興俳句運動を主導した俳人の日野草城。実は猫好きの巨匠としても知られ、飽きることなく子猫を見ていたらふいに目が合い“ミャア”とばかりに鳴かれた様子を詠んだ「猫の子のつくづく視られなきにける」など、猫愛にあふれた句が印象的だ。「ノラや」などのエッセーで知られる猫好き小説家の内田百閒も俳句を詠んでいる。

「藪の中に猫あまた居たり春暮るる」

 猫の可愛さが前面に出ていないところがひねくれ者の百閒らしいが、猫がたくさんいる情景と字余りがうまく響き合っている。

 猫好きで俳句好きのあなたにおすすめだ。

(幻冬舎 780円+税)

「俳句のルール」井上泰至編

 偉大な歌人の俳句を読む際も、自分で一句詠んでみたいときにも、俳句の基本的なルールが分かっていれば楽しさは倍増する。

 まず知っておきたいのが季語だ。これは、自然がこまやかで多様な日本ならではの表現であり、また日本人の感性のなせる業ともいえる。例えば、「夜長」は秋の季語だ。しかし、日本で夜が一番長いのは12月の下旬で、クリスマスの頃である。いったいなぜ、「夜長」が秋の季語なのか。

 それは、夕方遅くになっても明るかった夏に比べて、夜が長くなったと強く感じるのが秋だから。俳句は自然の詩であるとか環境文学と評されることもあるが、日本の風土や日本人の感性を前提としても季節感が詠まれており、それを表現するのが季語なのだ。

 本書では他にも、定型・字余り、省略・連想、滑稽・ユーモアなど、俳句を楽しむためには押さえておきたい10のルールを紹介。世界各国の俳句ファンが、それぞれの母国語で読む「ハイク」も取り上げていく。

(笠間書院 1200円+税)

「575 朝のハンカチ 夜の窓」岸本葉子著

 40代後半で俳句を始め、2015年からは「NHK俳句」の司会も務めている著者。本書では、何げない日常を詠んだ女性俳人たちによる50句を紹介している。

「春の虹誰にも告げぬうちに消ゆ」(朝倉和江「花鋏」から)

 偶然に見かけた春の虹。しかし見とれていたら、“虹が出ているよ”と誰にも言わぬ間に消えてしまった。それでも、誰とも共有しなかっただけに虹が自分だけのものとなり、その美しさが心の内を満たしていったのだろう、と著者は評する。

「今日のこと今日のハンカチ洗ひつつ」(今井千鶴子「句集 過ぎゆく」から)

 その日に持ち歩いたハンカチを“洗ひつつ”という表現が印象的な句。“洗ひつつ”今日あったことを思い出しているのか、それとも忘れようとしているのか。いずれにせよ、ハンカチを洗うことが一日の区切り、儀式となっていることを想像させる。

 難しいロジックなどない、シンプルかつ温かく心に響く俳句が満載だ。

(洋泉社 1400円+税)

「俳句の海に潜る」中沢新一/小澤實著

 俳句雑誌「澤」を主宰する俳人と、思想家で人類学者でもある著者2人が、俳句の本質について大いに語り合う。

 俳句には必ず季語を立てなければならないが、これは動植物や気象を考慮し、それを季語にして詠むということ。すなわち俳句を詠む際には、人間の目で世界を見てはいけない。

「俳句とは動植物の目になって世界を認識することをひとつのルールとしている」と中沢氏は言う。

 また小澤氏は、昭和から平成にかけて活躍した俳人、林翔の句「鷹が眼を見張る山河の透き徹る」を例に挙げて、まるで幻覚剤を使って鳥になる修行をするインディオのように、作者は鷹と一体となっていると述べる。

 俳句は自然界すべてのものに霊が宿ると考えるアニミズムと通じるものがあり、3・11以降、自然観が大きく変化した日本人にとって、第一級の芸術であると本書。

 日本人の感受性に訴えかける俳句の魅力に、学術的な側面から迫った対談集だ。

(KADOKAWA 1800円+税)

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