書き下ろし文庫本特集

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 通勤時でも出張先でも、サクッと読める文庫本。読書好きなら、軽くて安くて電池いらずのこの相棒を、常にカバンの中に忍ばせておきたいはず。今回は特に書き下ろし文庫にこだわって、SF、時代物、歴史エンタメ、旅エッセー、青春小説をご紹介!

「突変世界 異境の水都」森岡浩之著

 インド洋チャゴス諸島の沖合海域を航行中の漁船の網に、この世のものとは思えない奇妙な生き物が大量にかかった。

 当初新種の生物かと思われていたが、その海域に異形生物がすむ「裏地球」と入れ替わってしまう「突然変異現象」が起きたために出現した生物だということが徐々にわかってくる。

 そんな中、ついに大阪市を含む広大な関西地域が、異形生物が行き交う「裏地球」に転移。周囲の社会から切り離され、サバイバルが始まったその領域の中で、宗教団体アマツワタリの指導者の警護中だった水都セキュリティーサービス警護課の岡崎大希や、混乱と略奪が始まることを見越して自警団を組織する田頭誠司、部活帰りの電車の中で電車ごと転移してしまった出灰万年青らは必死にもがく。被災した彼らは生き残ることができるのか……。

 本書は、第36回日本SF大賞受賞作「突変」の前日譚。非常時にもかかわらず、災害に乗じて巻き起こる思惑や駆け引きなど、泥くさい人間模様が何とも興味深い。(徳間書店 900円+税)

「本所おけら長屋(八)」畠山健二著

 物語の舞台は、江戸・本所亀沢町にある「おけら長屋」。米屋の奉公人・万造と酒屋の奉公人・松吉は、剣術道場「誠剣塾」の師範補佐を務める鉄斎のもとに若い女が訪ねてきたと聞いて、よからぬことを想像して色めき立つ。

 しかし、会ってみればまだ13歳の若すぎる美乃という少女。仇討ちのために剣術を習っていた父親が病になってしまったため、父の代わりに仇討ちを果たすべく鉄斎に剣術を教えてほしいのだという。同情しつつも、みすみす返り討ちにあうために仇討ちするようなものだと憂慮する長屋の人々は、ある策を練るのだが……。(「その壱 すけっと」)

 シリーズ累計が36万部を突破した大人気の「本所おけら長屋」シリーズ第8弾。冒頭紹介した「すけっと」をはじめとして、「うらしま」「ふところ」「さしこみ」「こしまき」の短編5編を収録。長屋の人々の丁々発止のやりとりに、心癒やされる。(PHP研究所 620円+税)

「週末ちょっとディープなタイ旅」下川裕治著

 次の週末あたり、どこか近場の国にでも遊びに行こうか――。

 そんなふうに思ったら、ぜひ手に取りたいのが著者の「週末旅シリーズ」だ。本書は、著者が今まで出かけた台湾、ベトナム、香港、ソウル、シンガポールに続く「ディープなタイ旅」編。ページをめくれば、パッケージ旅行では決して味わえない、一歩踏み込んだタイが見えてくる。

 たとえば一番便利だけれどあまりにも危険で自己責任で乗るしかない裏の交通機関「バイクタクシー」なる存在、清廉さをアピールする新政権に疑心暗鬼になる最新のタイ政治事情、プミポン国王死去の際に国民が一斉に黒服と化した不思議、乗り継ぎという考え方がそもそもないタイの列車などなど、何度も足を運んだ著者ならではの知られざる情報が満載。

 タイ旅行を考えている人に役立つのはもちろん、そうでない人もタイを含めた周辺アジアの今を知ることができる。(朝日新聞出版 700円+税)

「黄砂の籠城(上・下)」松岡圭祐著

 2017年3月、商談のため北京に出張していた櫻井海斗は、難攻不落と思われた先方の重役エリック・チョウから、四つ星ホテルの北京東交民巷飯店であっさり契約の成立を言い渡された。

 不思議に思った海斗が理由を尋ねると、かつてこのホテルの場所で起きた義和団事件を解決に導いた海斗の高祖父・櫻井隆一とその上官だった柴五郎を尊敬しており、その血を引いた日本人と仕事がしたいからだという。

 日本人に忘れられてしまったこの事件を知ることが、いまの日本人にとって突破口になるのではないかという海斗の言葉をプロローグに、明治33年の北京に遡り物語が始まる。外国人排斥を叫ぶ武力集団・義和団があっという間に暴徒化するなか、逃げ場を失い援軍もないまま籠城するしかなくなった外国人たち。彼らをまとめ、率いることになった新任の駐在武官・柴五郎は、どのように生き残り策を考え、行動していったのか。「千里眼」シリーズなどで人気の高い著者が書いた初の歴史小説だが、最後まで手に汗握る展開で、さすがに期待を裏切らない。(講談社各640円+税)

「少年時代」深水黎一郎著

 町にちんどん屋が来ると、決まって後をつけていった小学生の「僕」。いつもは途中で追い払われてしまうのだが、あるときうまい具合に最後まで後をつけたあげく家に帰れなくなってしまった。そんな「僕」を見かねた若いサキソフォン吹きのシゲさんが、家まで送ってくれることになった。こんな第1章「天の川の預かりもの」から始まる本書は、主人公が大切にしている飼い犬を処分したくて仕方ない両親との攻防戦や高校柔道部でのしごきなど、その後の「僕」が遭遇した理不尽な出来事を、その後の成長と共に描いた青春小説だ。

 11年に「人間の尊厳と八〇〇メートル」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞し、16年に「ミステリー・アリーナ」で本格ミステリ・ベスト10の第1位を獲得した作家だけあって、ただの青春小説では終わらず、最後の最後にからくりが用意されているのもミソ。主人公と柔道仲間や両親との、一見乱暴なのにどこか温かいやりとりも楽しい。(角川春樹事務所 640円+税)

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