「ライト兄弟」デヴィッド・マカルー著 秋山勝訳

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 1903年12月17日、ノースカロライナ州キティホーク近郊の砂丘。ウィルバー・ライトとオーヴィル・ライトは、手づくりエンジンを搭載した「ライトフライヤー号」の下翼に交代で腹這いになり、吹きすさぶ寒風の中に飛び出した。空飛ぶ機械は「乗り手を振り落とそうとする野生の子馬」のようだった。実験を重ねるごとに飛距離が伸び、この日4度目の実験で、兄ウィルバーが乗ったフライヤー号は、59秒間滞空し、260メートルの飛行を達成する。世界初の有人動力飛行の成功を見ていたのはわずか5人。この快挙はろくに報道されず、認知もされなかった。

 飛行機の生みの親として知られるライト兄弟の不屈の挑戦を、膨大な日記や手紙、報道記事などを基に描いた評伝。兄弟はオハイオ州デイトンでライト自転車商会を営む自転車組立工。子どものころから機械に興味を示し、牧師である父がお土産に買ってきた飛ぶおもちゃが好きだった。鳥たちの飛行を飽くことなく観察し、専門書を読み漁った。

 兄弟は仕事の傍ら、自腹を切って飛行機の研究に乗り出す。グライダーを手づくりし、荒地にテントを張って実験を繰り返した。紳士的な2人は実験中もスーツにネクタイ姿。嵐をしのぎ、蚊の大軍の襲撃に耐え、数々の事故にもめげず、命を懸けて翼に乗った。家族はそれを見守り、支えた。

 いったん飛行に成功すると、その後の進歩は目覚ましく、フランスで、米国で飛行実演を重ねるうちに、無関心か嘲笑をもって眺めていた世間は、手のひらを返したように喝采する。それでも兄弟は驕らず、うぬぼれず、大きな見返りも求めなかった。2人は20世紀を変えた真の革新者だった。(草思社 2200円+税)

【連載】人間が面白い

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