「東芝 原子力敗戦」大西康之著

公開日: 更新日:

 東芝の凋落は2015年の粉飾決算に始まるが、その年11月、著者の在籍していた「日経ビジネス」は、東芝の米国の原子力発電子会社ウエスチングハウスが巨額の減損を隠蔽していた事実を暴いた。このスクープにより、その粉飾決算は、実に深い闇のごく一部であることが明らかになった。

 本書は、140年の歴史を誇る東芝が上場廃止寸前という危機に至った元凶を原子力事業への参入だとし、なぜそのような方向に舵を切っていったのかを詳細に跡づけていく。そこにはさまざまな要因が複雑に絡まり合っているのだが、中核は国策としての「原発輸出」だ。そのシナリオを経産省の役人が書き、実際に演じたのが東電と東芝だった。この国策は東日本大震災以降も引き継がれるが、原発の状況は大きく変わり、そのツケを東芝が負わされ、その事実を隠蔽するために全社挙げて粉飾に走る――。

 国策の失敗を民間企業に押しつける役人、権力闘争に明け暮れる経営陣、自社の不正に目をつぶる社員という三つどもえが、この不祥事を引き起こしたことが明かされる。(文藝春秋 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    立花孝志容疑者を"担ぎ出した"とやり玉に…中田敦彦、ホリエモン、太田光のスタンスと逃げ腰に批判殺到

  2. 2

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  5. 5

    新米売れず、ささやかれる年末の米価暴落…コメ卸最大手トップが異例言及の波紋

  1. 6

    兵庫県・斎藤元彦知事らを待ち受ける検察審の壁…嫌疑不十分で不起訴も「一件落着」にはまだ早い

  2. 7

    カズレーザーは埼玉県立熊谷高校、二階堂ふみは都立八潮高校からそれぞれ同志社と慶応に進学

  3. 8

    日本の刑事裁判では被告人の尊厳が守られていない

  4. 9

    1試合で「勝利」と「セーブ」を同時達成 プロ野球でたった1度きり、永遠に破られない怪記録

  5. 10

    加速する「黒字リストラ」…早期・希望退職6年ぶり高水準、人手不足でも関係なし