「竜宮城と七夕さま」浅田次郎著

公開日: 更新日:

 浦島太郎の話は謎だらけ。亀の背中で海の底に向かうとき、どうやって呼吸したのか。乙姫様との関係はどうだったのか。竜宮城ではどんなごちそうを食べたのか。まさかサシミではあるまい。

 あるいは、雨の七夕。逢瀬がかなわなかった彦星と織姫の関係はどうなるのか。いくら愛し合っていても1年も会わずにいたら破綻するのではないか。

 物語や伝説に想像力を涵養された少年は、長じて小説家になった。今では超多忙な売れっ子作家。朝から晩まで書斎にこもって原稿を書いているのかと思いきや、その日常は実にタフでアクティブ。小説の取材で中国に通い、締め切りの隙間を縫ってラスベガスで息抜き。愛馬が出走するとなれば、地方競馬場に遠征する。年齢相応の不具合を抱えながらも、熱い風呂が大好きで、食い意地は人一倍。「汝は何故痩せんと欲するか。ただちにダイエットの煩悩を去れ」と、都合のよい天の声を聞いたりする。

 そうした日々の出来事が、作家自身の手で料理されて、笑いと滋味をたっぷり含んだ絶品エッセーになる。

 JALの機内誌「スカイワード」の人気連載をまとめた単行本の4冊目、全40話。作家の話術に引き込まれ、読み出したら止まらない。

 (小学館 1400円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    松任谷由実が矢沢永吉に学んだ“桁違いの金持ち”哲学…「恋人がサンタクロース」発売前年の出来事

  2. 2

    ヤクルト「FA東浜巨獲得」に現実味 村上宗隆の譲渡金10億円を原資に課題の先発補強

  3. 3

    どこよりも早い2026年国内女子ゴルフ大予想 女王候補5人の前に立ちはだかるのはこの選手

  4. 4

    「五十年目の俺たちの旅」最新映画が公開 “オメダ“役の田中健を直撃 「これで終わってもいいと思えるくらいの作品」

  5. 5

    「M-1グランプリ2025」超ダークホースの「たくろう」が初の決勝進出で圧勝したワケ

  1. 6

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  2. 7

    福原愛が再婚&オメデタも世論は冷ややか…再燃する「W不倫疑惑」と略奪愛報道の“後始末”

  3. 8

    早大が全国高校駅伝「花の1区」逸材乱獲 日本人最高記録を大幅更新の増子陽太まで

  4. 9

    匂わせか、偶然か…Travis Japan松田元太と前田敦子の《お揃い》疑惑にファンがザワつく微妙なワケ

  5. 10

    官邸幹部「核保有」発言不問の不気味な“魂胆” 高市政権の姑息な軍国化は年明けに暴走する