「AX(アックス)」伊坂幸太郎著

公開日: 更新日:

 主人公は、普段は文房具メーカーに勤めるサラリーマンとしてごく普通に暮らしている殺し屋・兜。凄腕の殺し屋だったが、実は殺しの仕事よりも、予測不能な妻のご機嫌をうかがうことに何よりも神経を使って過ごしている。そんな兜は、息子・克巳が生まれて以来、殺し屋の仕事に疑問を持つようになり、何とかやめたいと思い始めた。しかし、殺人依頼をしてくる仲介屋の医師にあれこれと脅され、なかなかこの世界から足を洗うことができない。もちろん、家族は兜の殺し屋の仕事については何も知らなかった。やめると家族に危害が及ぶのではと危惧するなか、果たして殺し屋稼業から無事に脱出できるのか……。

 人気の著者による恐妻家の殺し屋を主人公にした連作短編集。夜中に帰宅した際に妻を起こさないように細心の注意を払う主人公と、家族思いの父親の姿を複雑な思いで見つめる息子の関係がストーリーを思わぬ展開へと運んでいく。殺し屋という仕事と主人公のキャラクター設定のギャップが絶妙で、読み手を飽きさせない。

 ユーモアと家族愛が満ちており、読後に温かな気持ちになれる。

(KADOKAWA 1500円+税)

【連載】ベストセラー早読み

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    新生阿部巨人は早くも道険し…「疑問残る」コーチ人事にOBが痛烈批判

  2. 2

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  3. 3

    阿部巨人V逸の責任を取るのは二岡ヘッドだけか…杉内投手チーフコーチの手腕にも疑問の声

  4. 4

    大谷翔平の来春WBC「二刀流封印」に現実味…ドジャース首脳陣が危機感募らすワールドシリーズの深刻疲労

  5. 5

    巨人桑田二軍監督の“排除”に「原前監督が動いた説」浮上…事実上のクビは必然だった

  1. 6

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  2. 7

    維新・藤田共同代表にも「政治とカネ」問題が直撃! 公設秘書への公金2000万円還流疑惑

  3. 8

    35年前の大阪花博の巨大な塔&中国庭園は廃墟同然…「鶴見緑地」を歩いて考えたレガシーのあり方

  4. 9

    米国が「サナエノミクス」にNO! 日銀に「利上げするな」と圧力かける高市政権に強力牽制

  5. 10

    世界陸上「前髪あり」今田美桜にファンがうなる 「中森明菜の若かりし頃を彷彿」の相似性