本城雅人
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本城雅人作家

1965年、神奈川県生まれ。明治学院大学卒。スポーツ新聞の記者を経て09年「ノーバディノウズ」(第1回サムライジャパン野球文学賞)でデビュー。17年「ミッドナイト・ジャーナル」で第38回吉川英治文学新人賞を受賞。著書に「紙の城」「監督の問題」など多数。

連載<2> ライバル紙を積み荷の一番下に置いた

公開日:  更新日:

 翔馬は積んであった他紙の束から、東都スポーツの一面を確認した。東都ジェッツの系列紙の一面は他の五紙とは違った。

〈大槻監督決断、汐村スタメン落ち〉

 打線のテコ入れのため、大槻監督が次のカードからFAで獲得した四番の汐村を先発から外すという独自ネタだった。

「東都は大袈裟だな」

 中本が嘲笑した。

「そうですかね」

「今更、汐村を外したくらいじゃ逆転優勝は無理だよ。今年のジェッツは全然打てねえんだから」

 入社十年になる中本に、翔馬は呆れた。汐村は人気監督の大槻から「ジェッツを変えてくれ」と懇願され、パ・リーグからFA移籍してきたスター選手である。それを首位から転落した優勝争いの大事な時期に先発から外されるのだ。

 汐村の性格なら腐るだろう。だが今年の成績では誰も同情しない。フロントはこのオフ、汐村に代わる大砲獲りに乗り出し、ストーブリーグは大騒ぎになる。それくらいスポーツ新聞で働く人間なら、常識で分かる。

 シーズンの最後に、大槻監督が勝負を賭けてきたが、同時に東都スポーツも勝負してきた。普段は一般紙を読む人間がスポーツ紙を買うこの休刊日に、読者が興味を持つこのネタを、大槻監督から聞き出してきたのだから。

 この日、一番売れるのは間違いなく東都だろう。首位から落ちたことなど昨日のナイター中継か、夜のスポーツニュースで知っていることだ。問題は大槻監督が残り試合でどうチームを立て直して反撃するか、だ。

 とはいえいくら打率は二割五分を割ったとはいえ、二十七本もホームランを打ち、四番を打っていた汐村をスタメンから外すとは翔馬も思いもしなかった。

 東都に負けるのは確実とはいえ、問題は各売店の〈シェア率〉だ。東都が三十パーセントで日日が十五パーセントなら惨敗だが、日日が十五パーセントしか取れなくても、東都が二十パーセント台前半なら、それほど大きな負けにはならない。

「四時半か」中本が腕時計で確認した。「いい時間だな。お疲れさん、会社に戻ろうか」売店が開くまでに配り終えて安堵していた。
店員がシャッターを開けるまで、まだ三十分近くある。

「ハチ公口に戻りましょう」

「なに言ってんだ、笠間」

「いいから行きましょう、ドライバーさんはここで。お疲れさまでした」

 そう言ってハチ公口へと走る。後ろを中本がやる気のない足取りでついてきた。

 ハチ公口には六紙が積んであり、一番上が汐村スタメン落ちの独自ネタが載る東都スポーツだった。最初に置いた日日スポーツは一番下ということになる。

 翔馬は周囲を覗い、誰も見ていないことを確認した。そして独自ネタが載る東都スポーツを一番下に置き、その上に四紙積み上げてから、日日スポーツを一番上に置いた。

 駅の売店の多くは、始発電車で販売員がやって来て、搬入しながら店を開ける。

 積まれた新聞は上から順に紐とビニールが解かれ、一部ずつスタンドに挿し込んでいく。早く来た客はスタンドの新聞から買う。すべてをスタンドに入れるのに、手際が悪い販売員なら三十分くらいかかる。その間、一番下の梱包された新聞が売れることはない。

「駅の構内に行きましょう」

「おいおい、全部やり直す気かよ。そんなの聞いたことねえぞ」

 中本は驚いていたが、翔馬が走ったので渋々ついてきた。駅の構内も、最初に置いた南口でも新聞の順番を置き替えた。
(つづく)

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