「東京ノスタルジック百景」フリート横田著

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 2回目の東京五輪パラリンピックが2年後に迫り、都内各所で再開発が活発化している。

 前回の東京五輪の前、作家の開高健は日本橋の上に首都高速道路が架かったことに恨み節のような文章を残している。しかし、生まれたときから「首都高をチョンマゲのように載せたあの日本橋しか知らない」著者は、そこに必要に迫られ、突貫工事でつくられ、長い年月使われ、今日も残るというその圧倒的リアリズムを感じ、そうした建築物に「前のみを見て進む戦後社会の熱いエネルギー」を見る。

 本書は、終戦後から高度経済成長期ごろに誕生し、今も奇跡的に残っている東京各所のそんな風景を取り上げ紹介するフォトルポルタージュ。

 巻頭を飾るのは、JR新橋駅前にそびえる「ニュー新橋ビル」。あらゆる種類の飲食店をはじめ、金券ショップやマッサージ店、雀荘などがごった煮のように詰まったこのビルのノスタルジックな空間は、狙っても二度とつくれないと著者は言う。

 ビルの誕生前、同地には戦後のヤミ市を前身とするマーケットが立っていた。当時を知る人の話からそのマーケットがまとっていた猥雑な空気を伝える。そのヤミ市時代を引きずり、同ビルには300を超える区分所有者がいる。オーナーがたくさんいるから、統一したコンセプトでテナントを入れていくことができず、この独特の空間が自然発生的に出来上がったという。

 神田駅から徒歩数分、高架下のわずか50メートルほどの路地に木造2階建ての飲み屋が並ぶ「今川小路」、門前仲町の名物横町「辰巳新道」など、仕事を終えた男たちが立ち寄るオアシスともいえる小さな飲み屋街があるかと思えば、大正12年生まれのおばあちゃんが店番をする昔ながらの正統派の駄菓子屋「高橋商店」(葛飾区)もある。

 その他、全盛期には連日満席の日々が続き、チップの1万円札が飛び交っていたという蒲田のグランドキャバレー「レディタウン」、戦前は池袋以上だったという大塚の賑わいの面影を今に伝える「大塚三業地」(芸者置き屋・待合・料亭を指す三業地=花街)、消滅した東銀座の三原橋地下街に代わって、国内最古の地下街となった「浅草地下街」など。

 その多くに再開発話が持ち上がっており、いずれ人々の記憶の中にしか残らぬ風景となってしまうのだろう。こうした存続が難しくなっている風景には、信号になぞらえ、黄色のマークを添える。

 そして「ソニービル」や「晴海倉庫群」、京成立石駅近くの「呑んべ横丁」など、残念ながら姿を消すことが決まっている(取材中に既に消えてしまった)、赤色マークのスポットも紹介。

 どこもかしこもが奇麗で清潔だが、どこか心が通わぬ風景へと均一化されていく中、しぶとく生き残った風景と、ひもとかれるその歴史におじさんたちの心は共振する。(世界文化社 1300円+税)

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