「わかって下さい」藤田宣永著

公開日: 更新日:

 65歳の声を聞くと、あとどれくらい元気でいられるか、墓はどうしようかとか、残りの人生を気にし始める。そんな年代にさしかかった6人の男を描いた短編集。

 表題作は、定年後、家で時間を持て余している男が主人公。「青春のフォークソング」というテレビ番組の公開放送に出かけたところ、隣に若い娘に連れられた60すぎの盲目の女性が座った。

 その横顔を見てハッとする。40年前、結婚の約束をした直後に忽然と姿を消した美奈子ではないか。半信半疑でいるところに、ステージから当時2人が好きだった因幡晃の「わかって下さい」が流れてきて確信に変わる。正体を明かさぬまま美奈子の話を聞き、彼女が失踪した意外な理由を知る……。

 その他、年頃になって亡き妻とうり二つになってきた連れ子の娘に複雑な感情を抱く男、互いに独り身になったところで長い間押し隠していた思いを幼馴染みに打ち明けようとする男など、人生の年輪を重ねてきたがゆえの、悲しくも切ない白秋・玄冬恋愛小説。(新潮社 1700円+税)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層

  3. 3

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 4

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    陰謀論もここまで? 美智子上皇后様をめぐりXで怪しい主張相次ぐ

  2. 7

    白木彩奈は“あの頃のガッキー”にも通じる輝きを放つ

  3. 8

    渋野日向子の今季米ツアー獲得賞金「約6933万円」の衝撃…23試合でトップ10入りたった1回

  4. 9

    12.2保険証全面切り替えで「いったん10割負担」が激増! 血税溶かすマイナトラブル“無間地獄”の愚

  5. 10

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?