著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「トム・ハザードの止まらない時間」マット・ヘイグ著 大谷真弓訳

公開日: 更新日:

 SF叢書の一冊だが、SFを読み慣れていない人も大丈夫なので、安心して読まれたい。主人公は、遅老症にかかったトム。この遅老症というのは、文字通り、年老いる速度が遅いこと。どのくらい遅いかというと、最大で15倍。つまり通常の人間の寿命が70歳とすると、その場合は1000歳を超える。

 不死ではない。銃で撃たれたら死ぬ。ただ、そういうことがない限り生き続ける。物語の柱は、トムが娘を捜していること。はるか昔に一度だけ恋をして(本来は禁止)娘が生まれたのだが、行方不明になってしまったのである。もうひとつは、遅老症はトムだけでなく、彼らの組織があり、その一員になっていること。組織の義務を果たせば十分な庇護を与え、娘の捜索にも力を貸すということで、トムは彼らの組織に入っている。

 その義務とは、新しく遅老症の人間が見つかると組織への加入をすすめること。もしも遅老症が発覚すると、通常の人間たちはその秘密を解明するために切り刻むに違いないと彼らは考える。だから、あくまでも秘密にしていなければならない。自由に振る舞われては困るのである。組織への加入を断る者は殺さざるを得ないほど、その掟は厳しい。

 かくて娘を捜すトムの長い旅が始まっていく。果たしてトムは娘とめぐり合うことができるのか。組織の方針に、トムはいつまで賛同できるのか。物語はスリリングに進んでいくのである。

(早川書房 2100円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  2. 2

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  3. 3

    渡辺謙63歳で「ケイダッシュ」退社→独り立ちの背景と21歳年下女性との再々婚

  4. 4

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  5. 5

    米価高騰「流通悪玉論」は真っ赤なウソだった! コメ不足を招いた農水省“見込み違い”の大罪

  1. 6

    大阪万博は鉄道もバスも激混みでウンザリ…会場の夢洲から安治川口駅まで、8キロを歩いてみた

  2. 7

    悠仁さま「9.6成年式」…第1子出産の眞子さん、小室圭さんの里帰りだけでない“秋篠宮家の憂鬱”

  3. 8

    参政党議員「初登院」に漂った異様な雰囲気…さや氏「核武装」に対しゼロ回答で現場は大混乱

  4. 9

    ダルビッシュの根底にある不屈の反骨精神 “強いチームで勝ちたい大谷”との決定的な違い

  5. 10

    悠仁さま「友人とガスト」でリア充の一方…警備の心配とお妃候補との出会いへのプレッシャー