「柳は萌ゆる」平谷美樹著

公開日: 更新日:

 盛岡藩の若き家老・楢山佐渡の波乱に満ちた半生を描く長編歴史小説だ。平谷美樹は小松左京賞を受賞してデビューした作家だが、「義経になった男」(全4巻)、「風の王国」(全10巻)などの時代小説でも知られる作家で、今回もたっぷりと読ませて飽きさせない。

 前半は、盛岡藩内部の問題を克明に描きだしていく。背景となるのは、貧困と重税に苦しむ民が頻繁に起こす一揆だ。騒ぎをおさめるために藩の重臣たちは簡単に要求をのむ。そして一揆がおさまると反故、の繰り返し。つまり抜本的な解決策を誰も考えていない。そのことに不満の楢山茂太(のちの佐渡)はどうしたら一揆はなくなるのかを考える。そして藩の方針を変えていかなければならない。敵対する人間もいるから、彼の戦いも大変である。

 しかし問題は、盛岡藩のことだけを考えていればいい、という時代ではないことだ。時は幕末。勤皇か佐幕か、そのことに関する藩の方針を決めなければならない。盛岡藩は結局、奥羽越列藩同盟に加わり、秋田戦争に敗れて、楢山佐渡も処刑されることになるのだが、そういう大きな時代の枠組みよりも最後は家族をはじめとする人間ドラマに焦点を合わせている。

 ネタばらしになるので詳しくは紹介できないが、ラスト近くでは何度も目頭が熱くなる。「義経になった男」「風の王国」とは違うテイストだが、これもまた傑作だ。

(実業之日本社 1950円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    竹内結子さん、石原さとみに立ちはだかった女優35歳限界説

  2. 2

    「俺は帰る!」長嶋一茂“王様気取り”にテレビ業界から呆れ声…“親の七光だけで中身ナシ”の末路

  3. 3

    巨人・岡本和真がビビる「やっぱりあと1年待ってくれ」…最終盤に調子を上げてきたワケ

  4. 4

    沢口靖子はまさに“奇跡のアラ環”!「2025年で『60歳』のお美しい女性有名人」圧倒的1位の原点

  5. 5

    視聴率トップ「モーニングショー」山口真由氏に続き…女性コメンテーター2人も"同時卒業"の背景と今後

  1. 6

    米倉涼子の"体調問題"が各界に波紋…空白の1カ月間に一体何が? ドラマ降板情報も

  2. 7

    山口真由氏「妊娠・休養」報道で人気を証明 復帰後に約束された「最強コメンテーター」の道

  3. 8

    杉田かおるが財閥創業者の孫との離婚で語ったこと

  4. 9

    林芳正氏が自民党総裁選“台風の目に”…「2強」失速でまさかの決戦投票進出あるか

  5. 10

    叱責、鉄拳、罰金…試練の日々で星野監督よりも「怖かった人」