著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「火星無期懲役」S・J・モーデン著、金子浩訳

公開日: 更新日:

 フランクは51歳の男だ。息子にドラッグを売りつけた保安官の息子を射殺した罪で懲役120年を宣告される。この男が火星に送られるところから物語が始まっていく。

 この時代、刑務所も民間企業に委託されているが、その親会社は火星基地を建設するために囚人を使うことを考えるのである。人を火星まで運ぶ大型宇宙船を建造するには莫大な費用がかかる。おまけに連れ帰るとなったら予算は膨大だ。それでは帰還しない者たちを火星に運べば、少しは費用が削減される。

 というわけで、刑務所で人生を終えることが確実な囚人に声をかけるのである。残りの生涯を刑務所で終えるか、それとも帰還は出来ないけれど、刑務所でいるよりも行動が自由になる火星を選ぶか、と選択を迫るわけだ。

 どのみち火星なので逃げ場はないが、それでも刑務所で人生を終えるよりはいいだろうとフランクは参画を決意する。彼を含めて7人の囚人が火星に向かうことになるが、医者にドライバーにコンピューターの専門家と、基地建設に必要な技術を持つ人間ばかり。

 この囚人たちが火星で次々に死んでいくのである。事故なのか殺人なのか。殺人なら誰が犯人なのか。フランクは火星という「閉ざされた空間」で推理していくことになる。

 つまり、火星を舞台にした長編であるからまぎれもなくSFではあるけれど、犯人捜しのミステリーでもあるということだ。異色のミステリーとして堪能されたい。

 (早川書房 1200円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    冷静になれば危うさばかり…高市バブルの化けの皮がもう剥がれてきた

  2. 2

    すい臓がんの治療が成功しやすい条件…2年前に公表の日テレ菅谷大介アナは箱根旅行

  3. 3

    歪んだ「NHK愛」を育んだ生い立ち…天下のNHKに就職→自慢のキャリア強制終了で逆恨み

  4. 4

    高市首相「午前3時出勤」は日米“大はしゃぎ”会談の自業自得…維新吉村代表「野党の質問通告遅い」はフェイク

  5. 5

    大谷翔平は米国人から嫌われている?メディアに続き選手間投票でもMVP落選の謎解き

  1. 6

    「戦隊ヒロイン」ゴジュウユニコーン役の今森茉耶 不倫騒動&未成年飲酒で人気シリーズ終了にミソ

  2. 7

    維新・藤田共同代表に自民党から「辞任圧力」…還流疑惑対応に加え“名刺さらし”で複雑化

  3. 8

    阪神の日本シリーズ敗退は藤川監督の“自滅”だった…自軍にまで「情報隠し」で選手負担激増の本末転倒

  4. 9

    志茂田景樹さんは「要介護5」の車イス生活に…施設は合わず、自宅で前向きな日々

  5. 10

    NHK大河「べらぼう」に最後まで東洲斎写楽が登場しないナゼ?