著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「泥の銃弾(上・下)」 吉上亮著

公開日: 更新日:

 2019年7月、東京オリンピックを1年後に控えた千駄ケ谷の新国立競技場で、東京都知事が狙撃される――という衝撃的な冒頭から、難民であふれる東京の混沌と、内戦で揺れるシリアの過酷な戦場を結ぶ迫力満点の物語がスタートする。
 主人公は2人。まずは日本人ジャーナリストの天宮。大新聞社を辞め、ネット記事を書いている一匹狼だ。都知事狙撃事件の1年後に天宮に電話をかけてきたのは、謎の男アル・ブラク。狙撃事件の真相を知りたくないかと、彼は情報提供を申し出る。こうして2人の、都知事狙撃事件の裏にひそむ真相をあぶりだす探索行が始まるのだ。
 東京オリンピックを見据えて難民の受け入れを決めた日本を舞台に展開するこの物語は、「アラブの春」から始まる中東国家の崩壊とシリアの分裂、それによって1000万人を超える難民が流出したリアルな現実を背景にして、日本の進むべき道をめぐる暗闘を巧みに、そして鮮烈に描いている。
 特に、アル・ブラクの回想として物語に登場するシリアの戦闘シーンの迫力がすごい。こういうアクションシーンがきちんと描けていることは現代のエンターテインメントとして高く評価したい。メッセージだけの小説ではけっしてないのだ。
 2013年にデビューした作家なので、まだ新人といっていいが、今後が楽しみな作家として注目していきたい。
(新潮社 上巻630円+税 下巻710円+税)



最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    DeNA三浦監督まさかの退団劇の舞台裏 フロントの現場介入にウンザリ、「よく5年も我慢」の声

  2. 2

    日本ハムが新庄監督の権限剥奪 フロント主導に逆戻りで有原航平・西川遥輝の獲得にも沈黙中

  3. 3

    佳子さま31歳の誕生日直前に飛び出した“婚約報道” 結婚を巡る「葛藤」の中身

  4. 4

    国分太一「人権救済申し立て」“却下”でテレビ復帰は絶望的に…「松岡のちゃんねる」に一縷の望みも険しすぎる今後

  5. 5

    白鵬のつくづくトホホな短慮ぶり 相撲協会は本気で「宮城野部屋再興」を考えていた 

  1. 6

    藤川阪神の日本シリーズ敗戦の内幕 「こんなチームでは勝てませんよ!」会議室で怒声が響いた

  2. 7

    未成年の少女を複数回自宅に呼び出していたSKY-HIの「年内活動辞退」に疑問噴出…「1週間もない」と関係者批判

  3. 8

    清原和博 夜の「ご乱行」3連発(00年~05年)…キャンプ中の夜遊び、女遊び、無断外泊は恒例行事だった

  4. 9

    「嵐」紅白出演ナシ&“解散ライブに暗雲”でもビクともしない「余裕のメンバー」はこの人だ!

  5. 10

    武田鉄矢「水戸黄門」が7年ぶり2時間SPで復活! 一行が目指すは輪島・金沢